内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

九月からの新学年で採用されるであろうハイブリッド授業方式について

2020-05-20 18:36:47 | 雑感

 今日は今さっきまで二時間、学部会議がオンラインで行われた。BigBlueButton という大学のイントラネットに統合されたアプリを使った。全部で五十五名参加したが、特にコネクションの問題はなかった。大学としては、セキュリティの点から、ZOOMやTeams ではなく、このアプリをオンライン授業でも使うことを推奨している。
 私にとっては今日が初めてだったので、まだ使い方がよくわかっていないところも多々ある。第一印象としては、ZOOMに比べてやや接続の安定性に欠けていた。ときどき音声が不安定になり、途切れてしまうことがあった。それがアプリの問題なのか、発言者が使っている機種によるのか、それぞれの接続速度の問題なのかはわからない。会議中に気づいたことは、非常に音声がクリアーで聞き取りやすい場合とそうでない場合の差がかなりあったことだ。これも使用機種やマイクの性能の問題に過ぎないのだろうか。チャットは自動的にスクロールしてくれなかったが、これは設定が変えられるのかも知れない。今回は画面共有が必要ではなかったので、その使い勝手については確かめられなかった。
 議論は九月からの新学年の準備に関する諸問題に集中した。現段階で確かなことは、教室での授業が可能になるのか、なるとしてそれがどの程度なのか、ということがまだよくわからないままに、あらゆる可能性を考えて、かつ既定の大学暦を遵守しつつ、新学年を準備しなければならないという未曾有の困難に直面しているということだけである。
 九月から平常通りに授業ができる可能性はかぎりなくゼロに近いが、その前提で時間割を組み、教室確保をしておかなければならない。ところが、もっとも可能性が高いオンラインと教室での対面授業のハイブリッド方式になった場合、平常通りにはもちろん教室は使えない。授業のタイプ、教室のサイズ、登録学生の数その他の多数のパラメーターを考慮して、オンライン授業と教室授業との組み合わせを考えなくてはならない。これが実に難題なのである。
 まず、教室確保の問題である。
 ハイブリッド方式にするということは、一回の教室授業の学生数を教室のサイズに応じて十分にフィジカル・ディスタンスが確保ように減らし、それ以外の学生はその授業に各自オンラインで参加するという形になることを意味する。その次の回は学生を入れ替える。だが、この方式は二グループに分ければ、教室が使えるという前提に立っている。ところが、話はそんなに簡単ではない。
 例えば、五〇名の登録学生がいて、それを二グループに分けて二五名ずつにしても、予め予約した教室ではフィジカル・ディスタンスが確保できなければ、その教室は使えない。別のもっと大きな教室にしなくてはならない。ところが、この問題はすべての学部で発生する問題であり、それでなくても普段からキャンパス中の建物の教室はフル稼働に近い状態だから、適切な教室がすべての学科に十分に確保できる可能性はほぼゼロに等しい。教室はそのままで、二グループではなく三グループに分けることももちろんできるが、そうなると教室での授業は三回に一回の割合にあり、学期は十二週であるから、各グループわずか四回しか教室授業に参加できないことになる。
 今日の会議で学部長から大学の方針として通達されたことは、ハイブリッド方式の場合、一年生の授業により多くの教室授業を割り当て、学年が上がるにしたがってオンラインを多くするということである。その意図は私もよくわかる。これは、しかし、フィジカル・ディスタンスの確保の点から言うと、ほとんど矛盾した方針である。なぜなら、日本の大学と違って、フランスは一年生の数が圧倒的に多く、学年上がるにしたがって「淘汰」されていくからである。つまり、一年生の授業がフィジカル・ディスタンスの確保が一番困難なのだ。小グループに分けるしかないが、それは同じ授業の回数の増加を意味し、それを受け持つだけの教員の確保が必要だが、これも極めて難しい。
 他方、ハイブリッド方式に応じて授業計画も組み立て直さなくてはならない。教室授業のみ或いはオンライン授業のみの場合よりも、組み立てが複雑になり、教師の負担が増えることは間違いない。学生たちも隔週で教室とオンラインとなると一定のリズムで学習することが難しくなる。ただ、この点は、慣れの問題でもある。それに、ハイブリッド方式の教育効果の上でのメリットもあるかも知れない。
 いっそのこと全部オンラインのほうが「楽」ではあるが、それでは学生たちがストラスブールに来る意味がなくなる。もしそうなれば、引っ越しを取りやめる学生もいるだろう。オンライン授業はいくら可能でも、ヴァーチャル空間だけでの大学でいくら「充実した」時間を過ごしても、それはもはや「キャンパスライフ」は言えないだろう。
 これから六月にかけて、感染状況とそれに対しての政府の方針の変化に応じて、大学の対応も変化する。それに応じて、学部、学科、学年、授業タイプそれぞれのレベルで、与えられた状況の中でよりよい問題解決策を考えていかなくてはならない。