内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

無限に変化する風景画帖の中を毎日歩く ― 歩行礼賛

2020-05-18 23:59:59 | 雑感

 外出自粛令の段階的解除が始まって一週間が過ぎました。その以前と以後で私自身の生活にはほとんど変化がありません。先日話題にしたように、散髪に行けたことは本当に嬉しかったですが、それを除けば、何も特別なことはありません。買い物の回数が増えたわけでも外出の機会が増えたわけでもありません。相変わらず半引きこもり生活を、嬉々としてではもちろんありませんが、淡々と送っております。
 ウォーキングもそのまま続けております。外出自粛令の有無に関係なく、規則的に運動することは健康維持のために必要です。そのために十年以上に渡って続けてきた水泳が当分できない以上、何かそれに替わる運動をと思って始めたウォーキングなのですから、それをやめる理由はありません。
 それにウォーキングは結構楽しくもあるのですよ。ストラスブールには、歩いていて気持ちの良い場所がいたるところにあります。嘆賞すべき街並みや風景にも事欠きません。それは観光地だからではありません。普通の街並みが美しいのです。私が住んでいる郊外には、半時間も歩けば、これが市内かと疑われるような長閑な田園風景が広がります。それに、同じコースを歩いていても、風景にはその日その日で光と影に微妙な変化があります。歩いているからこそそれに気づくことができます。
 歩きながら眺めることで、「同じ」風景が無限のヴァリエーションとともに立ち現れてきます。その風景の中を私は歩いています。ですから、ただ「眺める」というだけではなく、その風景の動的なヴァリエーションに参与しています。ちょっと格好をつけて、メルロ=ポンティ風な言葉遣いをすれば、風景に自らの身体を与えることで、風景から無限の変化を引き出している、と言ってもいいかも知れません。
 毎日同じ風景画帖を紐解いているのに、日毎にその中の画が違って見えます。いくら頁をめくっても終わりが来ない、そんな画帖の中を私は毎日歩いています。