一昨日の記事で「所有」という言葉を話題にしたが、これに相当するフランス語の名詞は possession であり、動詞「所有する」は posséder である。しかし、これらのフランス語には、日本語の「所有(する)」にはない強い意味がある。
一つは、「精通・熟知(する)」という意味である。例えば、« possession d’une langue étrangère » は「外国語に精通していること」であり、« Elle possède bien son italien » は「彼女はイタリア語に堪能だ」ということである。
「支配する」「とりこにする」という意味もあり、 « La jalousie le possède » といえば、「彼は嫉妬のとりこになっている」ということ。
「(悪魔などが)取り憑く」という強烈な意味もある。過去分詞が名詞化すると「悪魔に取り憑かれた人」という意味になり、ドストエフスキーの『悪霊』の仏訳のタイトルが Les Possédés になっていることもある(他の訳では Les Démons)。
パスカルの『幾何学的精神について』の断章二「説得術について」の一節に言葉の所有というテーマが取り上げられている。
Tous ceux qui disent les mêmes choses ne les possèdent pas de la même sorte ; et c’est pourquoi l’incomparable auteur de L’Art de conférer s’arrête avec tant de soin à faire entendre qu’il ne faut pas juger de la capacité d’un homme par l’excellence d’un bon mot qu’on lui entend dire : mais, au lieu d’étendre l’admiration d’un bon discours à la personne, qu’on pénètre, dit-il, l’esprit d’où il sort, qu’on tente s’il le tient de sa mémoire ou d’un heureux hasard ; qu’on le reçoive avec froideur et avec mépris, afin de voir s’il ressentira qu’on ne donne pas à ce qu’il dit l’estime que son prix mérite. On verra le plus souvent qu’on le leur fera désavouer sur l’heure, et qu’on les tirera bien loin de cette pensée meilleure qu’ils ne croient, pour les jeter dans une autre toute basse et ridicule. Il faut donc sonder comme cette pensée est logée en son auteur ; comment, par où, jusqu’où il la possède. Autrement, le jugement précipité sera [jugé] téméraire.
Pascal, Les Provinciales. Pensées et opuscules divers, La pochothèque, 2004, p. 147-148.
同じことを言うひとたちのすべてが、それを同じように所有しているわけではない。だからこそあの「話し合う方法」の比類のない著者(引用者注―モンテーニュ)は、ある人が素晴らしい名文句を口にしているのを聞いたからといって、それで彼の能力を判定してはならないことを分からせようと、あれほど躍起になっているのである。彼に言わせれば、見事な話に対する感嘆の念を話し手にまで広げる代わりに、それがどのような精神から出てくるのかを見抜く必要がある。それが話し手の記憶や偶然のまぐれ当たりから引き出されているかどうかを試してみるがよい。それを冷淡でばかにした様子で受けとめ、果たして相手が自分の言ったことに対して、その価値にふさわしい評価が与えられていないことを意識するかどうか見てみよう。たいていの場合、相手はただちに前言を撤回して、自分が思っているよりも優れたその考えを遠くに打ち捨て、まったく別の低劣で滑稽な考えに宗旨替えすることになるだろう。だから、問題の考えがその著者の心中にどのように宿っているのか、著者はどのようにして、どの観点から、どこまでそれを所有しているのかを探らなければならない。さもなければ、拙速な判断は軽率のそしりを受けることになるだろう。
パスカル『小品と手紙』塩川徹也・望月ゆか訳、岩波文庫、2023年、280‐281頁。
「冷淡でばかにした様子で受けとめ」って、常軌を逸して頭の切れすぎるパスカルのような天才からそう言われると、そうやってバカにされる相手の方にむしろ同情したくもなる。「ふん、この愚か者めが」と私も鼻で笑われている気がして、正直、読んでいて気持ちのいい文章ではない。こういう切れ味鋭い文章を読んで、「やっぱ、パスカルって、かっけー」とか、無批判に思う人たちと私は友だちにはなれないかな。
「まったく別の低劣で滑稽な考えに宗旨替えする」という醜態を晒さないようにせいぜい気をつけることくらいしか、私にはできない。