楢峠付近
近ごろは、名のある山より、かつて賑わった古道や忘れ去られた峠、生業の場でもあった入会山などに惹かれるようになった。
楢峠もその一つで、鉄道や幹線道路が整備されるまでは、飛騨河合と越中八尾を結ぶ主要街道の一つとして、峠を越していく旅人は多かった。
今は、国道471号線として管理されているが、豪雪地帯の峠道は、雪のため半年間は閉鎖される上、土砂崩れや落石も頻発して、年間通行できる日数は極めて少ない。
スタート地点
峠へは、河合町角川の除雪地点で車を置き、蛇行する二ツ屋谷川にそって登っていく。
前日降った雪は湿って重く、スノーシューの裏に団子状の雪が付き、表にも雪を載せて歩くのはかなりきつかった。
天気予報通り午前中は晴れて、降りそそぐ太陽に輝く稜線や渓谷の雪景色はきれいだった。
1時間ほどで二ツ屋に着く。かつてここには神社や住居、畑などがあったが、今はその痕跡もほとんど残っていない。
正面の山は富山の金剛堂山
峠の北方に連なる小白木峰から白木峰への尾根筋が、岐阜県と富山県の境界線となっているが、400年来の国境紛争が続き、昭和46年に県境が定まるまでは国土地理院の地図にも県境の記載は無かった。
藩政時代には隠し金山の存在、それ以降は用材や薪炭の利権が絡み、多くの犠牲者を出す紛争となったが、資源の枯渇や需要の減少が無ければ、争いは今も続いていたかも知れない。
思わぬ重い雪に苦しめられた楢峠の往復であったが、こんな山奥の僅かな土地をめぐって争う人間の執念と、物欲の深さにつくづく思い知らされた雪山の一日だった。