今日は二十四節気の「穀雨」で、暦通りの天気になった。
穀物の成長を助けると云うが、しとしとと降る雨は気持ちを重くする。
先週までは、季節外れの雪に見舞われ、野良仕事をする人の姿は少なかったが、ようやく田畑に出る人たちを目にするようになった。
山にこぶしの花が咲くと、苗代作りをすると言われているが、ここ数日の間に、山腹の白い花が目立ちはじめた。
苗代つくりは、先ず、田んぼの一角に畦を作り、育苗箱を並べるための平らな畝と、水をためる溝を掘る。
育苗箱に土を敷き、芽出しした種籾を蒔いて土を軽くかぶせ、平らにならした畝に並べて保温シートで保護して育てる。
30日前後で、苗が20cm程に育った頃に、田植えをする。
苗代つくりに失敗すると、その年の米作りは出来ないので、最も気を使う仕事だと言われている。
兼業農家は、きめ細かく苗の世話をする時間が取れないので、ほとんどJAから1箱700円前後で買っている。
JAの育苗工場は、ベルトコンベアで流れてきた育苗箱に、播種機で土が入れられ、種籾が蒔かれると、稲の病気の予防と、根が出やすくするための薬が入った水が散布される。
播種の終わった育苗箱は、巨大なハウスの中へ運ばれ、温度や湿度管理、灌水などが自動的に行われ、予定通りの期日に苗が出荷される。
ここでは、「穀雨」もこぶしの開花も関係なく、工業製品のように大量の苗が、安定的に生産される。
この集落でも、昔ながらの苗代作りをしているのは、少数のお年寄りだけになってしまった。
苗代の形や大きさは様々だが、基本は同じで、溝の水を見ながら水位を調整したり、気温が上がれば保温シートを外して風を入れ、夜間の冷え込みは寒冷紗で覆いながら、手間暇かけて苗を育てている。
高い苗を買っていては採算に合わないという理由もあるが、秋に収穫した自慢の籾を大切に保管し、春になったら苗を育てて収穫するといった、昔からの米作りにこだわっているからだ。
山里のお年寄りは、冷夏や日照りに一喜一憂しながら、大昔から続いてきた農耕文化を、今も細々と受け継いでいる。