午前9時に河童橋をスタートし、焼岳を背に梓川右岸を遡って明神を目指した。
除雪された作業道を外れて、この時期にしか歩けない森の中や川原の雪原を歩いた。
清冽な岳沢の伏流水で喉を潤したが、凍みるほどの冷たさが美味かった。
気温が上がって雪が緩み、モナコの皮を踏み抜いたり、雪に埋もれた木の桟道の隙間に落ち込んだりして、かなり体力を消耗した。
凍結した坂や雪が緩んだところでは、準備したアイゼンやカンジキを使えば安全だが、着脱が面倒でツボ足で通した。
ケショウヤナギはほんのりと紅をさして、遅い春の訪れを告げていた。
川原から土手に上がると、前方に明神橋が見えた。
午前11時に、穂高神社奥宮の鳥居に着いた。
嘉門次小屋もひだやも冬季休業中で、あたりに人の気配は無い。
神社に参拝し、明神池を半周した。
明神岳の南峰と主峰とも南向き斜面の雪は意外に少ない。
帰りは明神橋を渡り、左岸を辿って河童橋に向かった。
徳沢方面への分岐点に建つ明神館も、冬季閉鎖中でいつもの賑わいは無くひっそりとしていた。
巨木の茂る林間コースは森閑として、不気味なほど静かだった。
カラフルなテントが張り巡らされる小梨平キャンプ場も、今日は1張りも無く寂しげだ。
予定通り、12時に河童橋に着いた。
梓川の清流と穂高・焼岳を借景に、展望レストランを開店し、お握りにカップ麺、食後のコーヒーとクッキーのフルコースを楽しんだ。
一休みした後、バスターミナルから県道上高地線に出て、ひたすら歩いて釜トンネルを目指した。
途中で帝国ホテルの赤い屋根を見て、大正池ホテルの脇に出た。
ここで素敵な姿を見せてくれた山々に別れを告げたら、焼岳がひと際大きく噴煙を上げて見送ってくれた。
県道を塞ぐデブリを数ヶ所越えて、トンネルにようやくたどり着いた。
真っ黒な口を開けたトンネルが不気味だが、下ってくる人もいないので、一人で飛び込んだ。
足の痛みもあってか、20分の暗闇がずいぶん長く感じた。
前方に中の湯出口の光が見え、ほっとして時計を見たら午後3時50分を指していた。
全行程の24キロを雲ひとつ無い好天に恵まれ、残雪の上高地を心ゆくまで堪能できた。
来月は今日見た山の一つに登ることを胸に、軽い足取りで上高地を後にした。