高山市の本町通りで、恒例の「二十四日市」が開催された。
もともとは旧暦の頃に、「歳の市」として近郊の農家が農具や生活用品、年越しの食品、正月飾りなどを商う市だった。
現在はその名残りを残しながら、観光客目当ての露店も数多く並び、冬場のイベントとして毎年賑わっている。
この市が開かれるときは、いつも荒れ模様で吹雪いたり大雪に見舞われると言われているが、今日は好天に恵まれ、日曜日と重なったこともあって大賑わいだった。
たこ焼きや団子、岩魚の塩焼き、甘酒などと並んで、近郷農家で今も作られている昔ながらの民具や農具、食品などの露店も出ていた。
「小屋名しょうけ」は久々野町小屋名で、竹を主材料にマタタビとツタウルシを使ったざるで、野菜や米研ぎの水切りなどに使われる。
すべて手作りで、1日に1~2個程しか出来ないが、自然素材のざるは丈夫で使い易く、何十年も使い込んだざるをいまだに見かける。
「飛騨宮村ひのき笠・一位笠」は宮笠と呼ばれ、桧や一位の経木を編んで作られている。
江戸時代から野良仕事用に使われていたという日傘の一種で、暑い時は乾燥して通気性がよく、雨降りには膨張して雨を遮断する便利さで人気があったと言われている。
軽くて風通しもよく、10年以上も使用できる丈夫な笠も、昭和30年代を境に需要が減少し、今は工芸品として細々と作られている。
「有道しゃくし」は、江戸時代から久々野町の有道地区に伝わる木杓子で、材料には朴の木が使われている。
1本の材料から削りだす杓子は、材料のもつ色合いと、独特の彫りあとが素朴で独特な味わいがある。
「江名子バンドリ」は江戸時代から江名子町の農家で、ワラを主材に、シナの木皮、麻を用いて作られた蓑である。
バンドリは飛騨の方言で、ムササビのことを言い、蓑を着た姿がムササビに似ていることからバンドリ呼ばれるようになった。
昔から農家の副業として作られてきたが、ゴムやビニールの普及で需要が大幅に減り、今は雨具の実用品として作る人はいない。
地元江名子保存会の人たちが、製作技法の伝承と保存のため勉強会を開き、製品を二十四日市に出している。
1年の半年近くを雪に閉ざされる飛騨の農家は、木や藁などの自然の材料を使って農閑期の手仕事として様々な生活用品を作ってきた。
昭和30年代に入って、大量生産・大量消費に拍車が掛かり、飛騨の伝統的な生活用品はことごとく消えてしまった。
自然素材を使って手間隙かけて作った道具は、決して使い捨てにすることは出来ない。
ごくありふれた生活の道具が、今や観光客でにぎわう年1回の「二十四日市」で、伝統工芸品としてしか扱われないのは寂しい限りだ。