国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

中高生のための内田樹(さま) その16

2018-09-29 11:44:02 | 中高生のための内田樹(さま)
 私は授業中に実はよくわかっていない文章や純粋には解けていない設問を突然理解し、生徒らに自信をもって説明したことが何度かある。ひどいときなど、一度解いておいて、こういう解き方もあるがこっちの方が解き方としてきれいだねみたいなこともやった。そう、教えている最中に「なにもの」かが降りてくるのである。新しい解釈や解き方が唐突にやってくるのだ。予習の時も降りてくるけどね。
きみたちにも次の文章に出る「なにもの」かはいると思う。そういう視点で以下の文章を楽しんでほしい。





次の文章を読んで後の問に答えなさい。

 自分の賢い所以をすらすらと自力で説明できる(「やっぱ、子どものときにネギぎょうさん喰うたからやないですか」とか)ような人間は「賢者」とは言われない。
 真の賢者は恐ろしいほどに頭がいいので、他の人がわからないことがすらすらわかるばかりか、自分がわかるはずのないこと(それについてそれまで一度も勉強したこともないし、興味をもったことさえないこと)についても、「あ、それはね」といきなりわかってしまう。
 だから、自分でだって「ぎくり」とするはずなのである。
 何でわかっちゃうんだろう。
 そして、どうやらわれわれの知性というのは「二重底」になっているらしいということに思い至る。
 私たちは自分の知らないことを知っている。
 自分が知っていることについても、どうしてそれを知っているのかを知らない。
 私たちが「問題」として意識するのは、その解き方が「なんとなくわかるような気がする」ものだけである。
 なぜ、解いてもいないのに、「解けそうな気がする」のか。
 それは解答するに先立って、私たちの知性の暗黙の次元がそれを「先駆的に解いている」からである。
 私たちが寝入っている夜中に「こびとさん」が「じゃがいもの皮むき」をしてご飯の支度をしてくれているように、「二重底」の裏側のこちらからは見えないところで、「何か」がこつこつと「下ごしらえ」の仕事をしているのである。
 そういう「こびとさん」的なものが「いる」と思っている人と思っていない人がいる。
 「こびとさん」がいて、いつもこつこつ働いてくれているおかげで自分の心身が今日も順調に活動しているのだと思っている人は、「どうやったら『こびとさん』は明日も機嫌良く仕事をしてくれるだろう」と考える。
 暴飲暴食を控え、夜はぐっすり眠り、適度の運動をして・・・くらいのことはとりあえずしてみる。
それが有効かどうかわからないけれど、身体的リソースを「私」が使い切ってしまうと、「こびとさん」のシェアが減るかもしれないというふうには考える。
 「こびとさん」なんかいなくて、自分の労働はまるごと自分の努力の成果であり、それゆえ、自分の労働がうみだした利益を私はすべて占有する権利があると思っている人はそんなことを考えない。
 けれども、自分の労働を無言でサポートしてくれているものに対する感謝の気持ちを忘れて、活動がもたらすものをすべて占有的に享受し、費消していると、そのうちサポートはなくなる。
 「こびとさん」が餓死してしまったのである。



問 「こびとさん」と同じ意味の言葉を文中から10字以上25字以内で二か所。抜き出しなさい。














【解答】
私たちの知性の暗黙の次元
自分の労働を無言でサポートしてくれているもの





全文はこちらkara.から。


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