国語屋稼業の戯言

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小論文入門

2018-08-07 19:34:18 | 国語

【設問】

若いときに外国で1年間暮らす機会が与えられたとします。あなたは次の2つのうちどちらを選びますか。600字以内であなたの考えを書きなさい。

 a)できるだけ多くの国・地域を訪ねる  b)1つの国・地域にずっと滞在する


解説としての解答手順
【前提】
小論文とは「結論があること」「結論の理由が説明できていること」が最低限の目標である。以下に初心者向けの書き方&考え方を手順に沿って述べる。初心者向けと書いたのは、パターン化された思考で対応できない中級以上の問題があるからである。

【手順】
① 設問の分析をする。
いきなり書かないことが肝心である。
・ a)かb)の「どちらか」を選ぶ。
・ 字数も大事な情報である。600字なので、複雑な構成は不要である。今回は主張→理由→反対意見(譲歩)→最大理由(逆接)→結論の構成にしてある。
・ ここがポイントだが、「若いときに」が条件に入っている。「若いとき」というものを君がどのようなものとして捉えているかを解答の条件にしているわけだ。その際、単純に考えてはいけない。君の普段の問題意識や思考のレベルが高校生以上(大学生、専門学校生、会社員など)になる可能性をたずねているのである。
なお、重要な情報がさりげなく入っているのが、入試なので注意深く考えよう。
②a)が良い理由、b)が良い理由を箇条書きにする。
反対意見の良さも理解していた方がいいので、自分の好みでないことも考えなくてはいけない。また、最初の思いつきはレベルが低いことが多いので、多様な見方をするためにも両方について考えよう。ひょっとしたら、はじめの方向性が幼稚だなと自分でも思えるかもしれない。その場合、とても幸せなことで、レベルが上の答えができるかもしれない。このときのコツとしては、とにかく量を出すことである。それによって、自分の考えの枠(普通の高校生の考えの枠)を越えた発想ができることが多いのだ。なお、高校生以上の思考をするときに、やや難しいことば(補1)を使ってみるのもいい。
③ どちらが良いかについて自分の考えを決める。次に理由をいくつか選ぶ。その際、3段階程度で評価すると良い(◎○△)。
ここで主張を決める。「どちらもいい」などの主張はだめである。「どちらを選びますか」と設問にある以上、決めなくてはいけない。また、反対意見の方もまじめに検討する。◎はあまり乱発しないようにする。一つでもいいくらいだ。
④ まず結論を決める。文にすると以下のようなイメージになる。
私は【                     】と考える。
  *思考感覚動詞はあまり使用しない。論理的でなくなることが多いからだ。一か所くらいにしておこう。また本文では使わなくてもかまわない。
⑤ 次に④という考えになる理由(浅い方○△レベル)を選ぶ。
いくつか並べると、考えが深いと思われるうえに主張をサポートすることになるので、複数の理由を設定しよう。
それは【                     】からだ。また、【                     】からであり、【                     】からだ
⑥ 反対意見のよさも認めるために「確かに」を使って譲歩内容を考える。
次の⑦と対応することを意識させるようにしよう。複数並べられると良いのは先ほどと同じだ。
確かに、【    】は【               】という面がある。また、【             】という面もある。
⑦ 最も説得力のある理由(◎レベル)を出す。
先にも書いたが、⑥との関係もあると望ましい。
しかし、【                        】のだ。
⑧ 最後の段落を結論とするが、⑦で書いたことを踏まえたものにする。
だから、私は【      】と考えるのである。

以上の作業が書く前までのメモである。多少は合理的にしてもかまわない(②のメモに数字や記号を付加するなど)が、書く前にアウトラインはできていた方が良い。なお、小論文の練習でパソコンの使用は避けた方が良い。試験会場とメモの状況が変わる上に、情報の変更の仕方が変わるためである。そして、入試で提出する答案は手書きなのだ。
なお、上記は骨格であって、字数不足になることが多いだろう。それに対しては骨格に説明を加えて対応していこう。説明を加えるためには、「わかりやすく言い直す」「背景や理由を付け加える」などを意識すると良い。

【解答例】
 私はa)のできるだけ多くの国を訪ねる方を選ぶ。
 それは、文化の多様性、人間の多様性を理解できるからだ。現代は時にグローバリゼーションの名のもとに多様性が見えにくい。しかし、多様な文化のある世界の方が多様な生き方ができる社会であり、全員が決まった生き方をするより自由な分、望ましいと私は考える。また、多くの国に行くことで様々な地形や自然に触れ、身体の感触で世界を実感できるからだ。一つの国と自国では体験できる世界に限界がありすぎる。外国に行くことを選ぶのなら、経験は豊富な方がいいだろう。
 たしかに、短期間の滞在で理解できることなど表面的なもので、ずっと滞在する方がその国の本質を理解できるという意見もあるかもしれない。
 しかし、若いときに本質がわかるだろうか。むしろ、本質を知りたい国を探すべきなのだ。なぜなら、本質を知りたい国を選ぶことは経験や知識不足から難しいからだ。
 だから、若いときはできるだけ多くの国を訪ねることで経験や知識を深めることが望ましく、もっと深く知りたいと思える国を探す機会にすべきなのだ。


(補1)グローバリゼーション、文化の多様性などの用語は高校生にとって、普段、意識されない、しかも難しい言葉かもしれないが、採点者である大人から見ると、高校生には使いこなして(=知っているだけではなくて)もらいたいと考えられる言葉である。他にも異文化理解なども、この問題では使えるといい。
もしこのような難しいことばと親しむ機会が少ないなら、入試現代文の評論を利用するのがいいだろう。そこで使われている言葉で印象的なものを使えるように例文を作り、ノートなどに記していくと練習になる。もう一つ加えるならば、大学などの進学先のHPを見るといい。特にその大学で何を学ぶかを説明している部分を重視する。そこでしばしば使われている言葉は使いこなせた方がいいだろう。
(補2)こういう二者択一形式でない問題もあるかもしれない。しかし、そのような問題でも自分の意見と自分とは違う意見を比べて結論を導くという展開の小論文や、課題文に対して、賛成か反対かで意見を述べていくという小論文に持ち込める場合は、今回の考え方の手順で大丈夫なはずだ。今まで述べたことは完全なものではないが、応用が利くものなので、まず、小論文の型はここから始めよう。
(補3)以下に文体などの部分を追加しておく。
・ 会話体を避ける(会話体の欠点はくだけた印象になるだけでなく、思考も流れるようになってしまう。きっちりと論理で埋めていく文章になりにくい)。
・ 一人称は「私」にする。「私」を使うと、あらたまった意識を持てる)。
・ 主語・目的語を設定するようにする(こうすると独りよがりの文章を書かなくなる)。
・ 「変だ・おかしい・間違っている・正しい・不安だ」などの印象語はあまり用いない(これを用いると説明を省略することが多くなる。どうしても使う場合は理由や説明を加えよう「彼がゲームばかりしているのはおかしい」ではなく、「彼は受験生なので勉強をすべきである。それなのに、ゲームばかりしているのはおかしい」などのようにしなくてはいけない)。
   ※上記のように、文体や表現が思考にまで影響するというこを知っておこう。




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