kotoba日記                     小久保圭介

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タカム・ヴジョン

2022年09月30日 | 生活詩

         

その人は

呼び鈴を鳴らしていた

しばらくすると

窓が開いた

その人は言葉を買った

五百円するという

店主は年月日を墨で書いた

その人は聞いた

「水の道はどこですか」

店主は答えた

「天と地」

店主は身を乗り出して続けた

「歴代の主は今わたしであり、湧き水を守っている」

わたしにもよく聞こえるところに来るよう

軽く手招きした

わたしたちは

店主の話を聞いた

長く話すのはめったにないだろうから

一言も聞き漏らすまいと

思ったけれど

わたしの目は店主の動く口を見ていた

言葉は口から発されるのに

店主の体が話していることに気づいた

長い話が終わり

その人は東に向かう階段を降り

わたしは戻って

階段を降りた

屏風の前で

その人が空を見ていたので

わたしは言った

「椿」

「椿」

その人も言った

白い紙が揺れ

木々が揺れた

その人は舞いあがる寸前だったので

涙ぐんでいた

わたしは言った

「あなたに会わせたい人がいる。その人は言霊の町に住んでいる」

電車が確実にその駅に停車するが如く

湧きいずる『水の庭』駅で

わたしたちは半ば確信に満ち

見えぬ電車を降りたのだ

その人は言った

「水の道が見え始めた」

わたしは答えた

「はい」

大気

人々が水を汲む

その人はまた涙ぐんでいた

紡ぎの音は黄金で

光の直線は風に動じず

まっすぐ空から地を突き抜ける

それは無音という轟音

光、光

大きな流れの中にいる

庭に立ち

話す言葉はすべて

言霊になり

飛んでゆく

言霊の軌跡を

わたしたちは

空に見ていた

役割が生じたと

わたしは思い

「天と地を行き来するのですか」

わたしは聞いた

「そうです。たくさんいます」

時間は人間が便宜上作ったもの

わたしたちがいる場所から

時間が消滅し

強い風の音だけが

聞こえていた

タカムの庭

涙ぐんでいたその人が

のちに

重要な箴言を発することなど

まったく知らずに

わたしは

わたしたちは

時が消滅した

タカムの庭に

立っていた


※絵はmariaさん



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