晴
早出
淡々さんからカルピスソーダ
大量にいただく
ありがとうございます
ヘンリーさんから
コーヒーいただく
ありがとうございます
本日もline、メール多々
あらゆることは
君のとってクソだった
路上に座り
煙草をふかして
トラックの停め場所を
狙っていた
君は韓国に生まれ
長野の田舎で暮らしたけれど
どいつもこいつもクソだったので
つまはじきにされ村から追い出された
君は韓国人と日本人と英国人の血が混ざり
家の中は三カ国語が飛び交った
だから未だに日本語がカタコトだった
学校もすぐにやめてしまったから
さらにうまく書けず読めなかった
父を残して韓国人のハーフである母と
大阪は鶴橋に引っ越した
大阪は君にとって最高の土地だった
美味いキムチがたくさんあって
誰もかれもが親切で
君は愛らしくかわいがられた
十七になった時
男と出会った
男は君を乗せて
ハイウェイを百六十キロでぶっ飛ばした
「怖いか」
「楽しい」
と君が答えたので
男は君にプロポーズした
「君が現れるのを待ってた」
君と男は結婚して
三人の子供を持った
男は仕事帰りに
事故であっけなく死んだ
その二カ月後
長野に残した父も事故で死んだ
子供を育てるために
君も免許を取った
それまで無免許で車もバイクもぶっ飛ばしていたから
簡単に免許が取れた
旦那の墓石にはハイビスカスを埋め込んだ
中国でしか作れない特注の墓だった
来る日も来る日もハイビスカスの墓に通い
泣きはしなかったが
たくさん話した
そのうち君は子供たちを連れて
夜逃げ同然で大阪から出て
職を転々としながら
子供が独り立ちできるまで
力の限り稼いだ
朝も昼も夜も働いたけれど
旦那が空から守ってくれていると知っていたので
倒れることなく
毎日働いた
子供たちは笑った
だから君も笑った
だがハイビスカスの墓の前では
笑わず
長い時間座り込んで
酒を飲みながら
旦那に話して聞かせた
親戚は君のあらくれにうんざりして
誰もかれも君から去っていった
子供たちもやがて
家庭を持って
君から離れていった
そのうち
妻子持ちの男と出会った
男は君を愛した
だから君も男を愛した
七年の間
男は家庭と君の家を行ったり来たりした
ある日の朝に男の妻が君の家にやってきた
旦那を責めず
君を責めた
それでも君は謝らず
言い放った
「あんたは太陽の輝きの下にいるのに太陽に気づいてもいない」
男は一度君から去って
家庭に戻ったが
また君とよりを戻して
愛し合った
君は思った
ハイビスカスの墓に眠るあの太陽の男のことを
そして隣にいる月のような男も愛していると
君は死んだ夫と妻子持ちの男を同時に愛した
それが君には当たり前に可能だったから
そのうち
妻子持ちの男は悩み
冬の冷たい公園で首をくくって死んだ
君は思った
二人の男を殺してしまった
と
けれど君は思った
わたしはわたしの思い通りに生きてきた
これからもそうすると
だから後悔はないが
冷たい公園で死んだ男のブレスレットと
旦那の写真を同じ部屋に飾り
毎朝二人の死んだ男に祈った
君は猫を飼った
猫はそう簡単に死なないと思ったから
君は一箇所に留まることができなくなった
同じ部屋にいると気が滅入ってきたから
だから気が向いたら
何度も引っ越した
そのうち病を得て
毎月三回は点滴をしないと
生きていけなかったが
そんなことはどうでもよかった
二人の死んだ男たちのことを思えば
病なんか何でもない
あらくれの君は引っ越すたびに
近所ともめ事を起こした
パトカーが来ても
君は言った
「わたしは悪くない。だって奴らはハイビスカスの輝く赤も知らないのだから」
君は大家に追い出され
猫と一緒にまた引っ越した
トラックドライバーの仕事をしていたけれど
遺族年金を旦那が残してくれたので
君は好き勝手に楽しんで生きた
二人の死んだ男たちのためにも
楽しんでやるのが供養だと信じた
そのうち金も果てて
仕事も解雇され
家を追い出された
車だけはいつも持っていたので
猫と車中泊した
どうやって金の工面をしようかと
考えたが良いアイディアは生まれなかった
しょうがないので
遺族年金を頼りに
飯も食わず
過ごした
誰もいない
君は思った
思った通りに生きたから
誰もいなくなった
それでも君はそれでよかった
誰かに頭を下げるくらいなら
どぶ臭い川で水底まで潜って泥を取ってきてやる
夜になると
猫を抱いて
眠った
朝になると
コンビニのWi-Fiを使って
誰彼にメールした
「大阪に戻ってこないか」
大阪に住んでいる娘が言った
そのつもりだったが
うまく事が運ばなかった
大阪は良いところだが
何かが君を通せんぼしていた
どこに行けばいいんだろう
君は思った
毎日
寒い日が続き
車の中から
雪が降るのを見ていた
その一粒一粒が
死んだ男たちの言葉のように思えて
雪粒が言う言葉を聞いていた
「思った通りにやればいい」
死んだ男達は君に言った
「ハイビスカス」
君は死んだ男たちにそう呼ばれていた
「ハイビスカス、みんなを君の情熱の赤で温かくしてやれ、熱くしてやれ。それがお前のやることだ」
君は冷たい雪の一粒一粒が火の粉に見えてきた
そうだわたしはわたし
生まれてきたから
好きなことをして好きなところに行って
好きなことを話してやる
それが嘘だろうが本当だろうが
わたしには男たちを魅了する力と輝きと言葉がある
君は「時が来るまで待て」
と言い聞かせた
何でも何とかなってきたし
何でも何とかしてきた
それがわたしの輝きでもあらくれと言われてもいい
わたしはわたしだ
誰もわたしみたいに生きられない
「ハイビスカス、頑張れ」
君が自分に呟くと
雪がやみ
太陽が空に出てきて
君と猫に照って
空が青くなった
腹が減ったので
水を飲んだ
君は死んだ旦那の名を呼んだ
「ハイビスカス。今、みんなを俺が輝かせている。お前には特に。もう一度ヤリたいんだがなあ。何とかならんか」
死んだ旦那は君を笑わせた
君は声を出して笑った
涙がこぼれていたことに気づくまで
ずいぶん時間がかかった
空にでかい太陽があった