同一労働同一賃金の問題もあり、正社員だけに支給している手当を見直す会社が多くなっている。
しかし、それまで従業員に支給してきた手当を将来に向かって支給しないこととするのは、労働条件の不利益変更になるので注意を要する。
ところで、一部には「不利益変更=違法(望ましくない)」との先入観を持つ向きもある。
そのためか手当廃止を含め労働条件の変更にアレルギー反応を示す人が労使いずれの側にも一定数いるが、その認識は払拭していただきたい。
例えば「世帯主手当」のような男女差別を助長するおそれがあるものや「タイプライター手当」のような現代においてはその役割を終えたものを廃止するのも不利益変更に違いないが、これらの手当廃止には合理的な理由があって、正しい手順を踏んで変更しさえすれば全く問題ないのだから。
また、「A手当を廃止する代わりにB手当を増額すれば不利益変更でない」と考える経営者もいるが、そうとは限らない。
A手当が臨時的または恩恵的なものであり、かつ、B手当が固定的なものである場合は、労働者にとって有利な変更になるが、そうでない場合は「A手当の廃止」という点で紛うことなく不利益変更である。 そして、「B手当の増額」は、その“代償措置”という位置づけになり、労働条件変更の合理性を強調する材料の一つに過ぎない。
さて、労働条件を変更する際の正しい手順としては、まずは個別に同意を取る(労働契約法第8条)ことを考えるべきだ。
全従業員から個別同意を取るのが現実的でない会社や合意しない従業員がいた場合等は、就業規則の変更により労働条件を変更する(同法第10条)わけだが、労働契約法は就業規則による労働条件の変更を原則として禁じている(同法第9条)ことは憶えておきたい。
なお、変更後の就業規則が有効となるには、次の2要件を満たさなければならない。
(1) 労働者に周知されている
(2) 就業規則の変更が、以下①~⑤に照らして合理的なものである
① 労働者の受ける不利益の程度
② 労働条件の変更の必要性
③ 変更後の就業規則の内容の相当性
④ 労働組合等との交渉の状況
⑤ その他の就業規則の変更に係る事情
いずれにしても、個別の契約(雇用契約書)であれ、集団の契約(就業規則)であれ、“労働契約”なのだから、両者が合意すれば変更は可能だ。 従業員に対して誠実に説明して理解を求めれば、何ら後ろめたいことは無い。
逆に、「実質的に変わらないのだから会社が一方的に条件を変えて構わない」とばかりに手順を蔑ろにするとトラブルに発展しやすいのだ。
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