労働条件を労働者にとって不利益に変更するには、該当する従業員全員と個別に合意を交わす方法(労働契約法第8条)と就業規則を変更する方法(同第9条・第10条)とがある。
これらのうち後者は会社が一方的に決めることができるためトラブルになりやすいのは想像に難くないが、前者であってもその合意の効力が争われることがある。
裁判所は、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである」(最二判S.48.1.19、最二判H.2.11.26、最二判S.28.2.19等)との立場に立つ。
具体的には、次のような観点をもって、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたもの」と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かを判断される。
(1) その労働条件変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度
(2) 労働者により同意がされるに至った経緯及びその態様
(3) 同意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等
これを踏まえて考えれば、
(1)に関して…
他の条件を引き上げて不利益を軽減する、激変緩和措置を設ける、実施までの猶予を置く、期間限定とする
(2)に関して…
会社が倒産の危機に瀕している、役員報酬を減額している、同業他社やグループ企業の相場や慣習に合わせている
(3)に関して…
複数回にわたり丁寧に説明した、裏付け資料を用いて説明した
といったケース(例示)であれば、個別合意に基づく不利益変更の合理性が高まると言えそうだ。
逆に、安直に「同意書」を提出させただけでは、その合意が否認される可能性が高いと認識しておくべきだろう。
一般に、労働条件の不利益変更に際して個別合意を交わしておくとトラブルになりにくいとは言われるが、それでもトラブルにならないわけではない。
経営者は、労働者に誠意をもって説明し、形式ではなく、本当に納得して合意してもらえるように努めなければならない。
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