ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「マミートラック」は本来ネガティブな用語ではない

2024-04-13 12:47:53 | 労務情報

 育児と仕事とを両立させることは、個々の労働者はもとより社会全体にとっても重要であって、企業もそれに協力するべきであることは誰しも理解できているだろう。
 しかし、それが理解できている会社(経営者・人事担当者)であっても、ともすれば、会社が両立のための人事制度を用意して出産(または妊娠)した女性従業員をその路線に載せればそれで満足してしまいがちだ。

 ところで、「マミートラック」という言葉がある。
 アメリカのNPOが1988年に子育て中の女性のため労働時間や業務量に配慮した人事制度(育児休業やワークシェアリング等)の整備を提唱し、これを取り上げたジャーナリストが「マミートラック(mommy track)」と称したのが発端とされている。
 すなわち、マミートラックとは、「キャリアトラック(career track)」あるいは「ファストトラック(fast track)」と呼ばれるものとは異なる“別路線”を意味し、言わば「単線型人事から複線型人事への移行」であって、元来は歓迎されるべきものであった。

 ところが、今日の日本において「マミートラック」は、ネガティブな文脈で使われることが多くなっている。 育児と仕事とを両立させるための人事制度を選択すると、「責任ある職務に就けない」・「仕事にやりがいが持てなくなる」・「給与が下がる」といったデメリットがあり、それら弊害のことを「マミートラック」と呼ぶ風潮がある。 中には「マミートラックが生じてしまう」という誤用すら見受けられる。
 まして、会社が出産(または妊娠)した女性従業員に対し当然のように両立制度の利用を勧める(マミートラックに載せようとする)のは、男女雇用機会均等法第11条の3や育児介護休業法第25条に違反する行為(一般的には「マタニティハラスメント」と呼ぶのが通じやすいかもしれない)となる。 これでは、せっかく導入した両立制度が台無しだ。

 本来のマミートラックには、「自身への負担が減る」だけでなく「同僚への負担も減る」ことから「罪悪感なく職場にいられる」というメリットがある。 会社はそれをきちんと説明して、あくまで本人の意思でどうするかを選択させるべきだ。 さらに言えば、女性従業員だけでなく、配偶者の出産を控えた男性従業員にも同様に説明して希望を尋ねるべきだろう。

 多様な働き方が求められる今こそ、「マミートラック」について、用語本来の意味とそのメリット・デメリットを正しく理解し、労働者それぞれの生活に合わせて両立制度が選択できるよう、経営者の意識改革を進めたい。


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