会社経営にあたっては、特定の事業場(工場や店舗)を閉鎖しなければならないことがあるかも知れない。
しかし、職場がなくなるからと言って当然にそこで働く労働者を解雇できるわけではない。
事業場閉鎖においても、「整理解雇の4要素」(a.人員削減の必要性、b.解雇回避努力、c.人選の妥当性、d.労働者側との協議)によって解雇の有効性が判断されるところ、(a・c・dは考慮する余地がないとしても)bをおろそかにすると、権利の濫用としてその解雇が無効とされる可能性もあるからだ。
さて、その解雇回避努力の具体的措置としては、希望退職者募集、労働時間短縮、一時帰休等も挙げられるが、事業所閉鎖のケースでは「他部署への配転や関係会社への出向等を検討すること」と言い換えられるだろう。
会社が提示した配転や出向を本人が拒絶したなら、そのときこそ解雇(経緯によっては「業務命令違反」に該当する場合もある)を選択するべきだ。また、配転や出向が現実的に難しければ必ずしも本人に打診しなくてもよいとされる(静岡地浜松支判H10.5.20、横浜地川崎支判H14.12.27等)が、少なくとも“検討”しなければ解雇回避努力を尽くしたとは言えない。
また、意外に思われる向きもあろうが、これは「勤務地限定社員」についても同様だ。
もっとも、勤務地限定は労働者側の都合で条件を付しているケースが多いので、本人が配転や出向に応じる可能性は薄いが、だからと言って解雇回避努力が不要ということにはならない。
それから、失念しがちなのが、業務災害により休業している者および産休中の者については解雇できない(労働基準法第19条)ことだ。閉鎖する事業場に該当者がいる場合は、当面は「本社預かり」「人事部付」などとしておき(本人は休業中のため職務内容や通勤の問題は発生しない)、休業明けの時点で、配転または出向を命じるか、30日後に解雇するかを選択するのが一般的な対応だ。もちろん、事情を説明して退職を勧奨してもよい。
ちなみに、「転籍」(「転籍出向」、「移籍」とも呼ばれる)は、「出向」(ここでは「在籍出向」のことをいう)とは異なり、今の雇用関係を解消して(すなわち、解雇を前提として)他社に雇用されることになるので、このケースでは、「解雇回避」というより、「再就職支援」に近い概念だ。
とは言え、ただ解雇するだけよりも望ましいには違いないので、会社としては転籍も選択肢に入れて検討するべきだろう。
事業場閉鎖の責任は、言ってみれば経営の失敗に他ならず、そうなった以上は、労働者の不利益を最小限に止めることを考えるのが、正しい経営者の姿と言えるのではなかろうか。
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