「この部屋をすっかり模様変えされたんですね」 とリチャードが部屋の中を見廻して言った。 「素敵ですわね、奥様」 とドーリスが言った。 「こういう 摂政時代風 の装飾が この節の流行でございましょう? 模様変えをなさる前はどんなでしたの?」 「昔風に 薔薇色 でまとめてありましたね?」 とリチャードはぼんやり言った。 炉の火 の柔らかい光を浴びて、 アンと2人古ぼけたソファに並んで座っていた日の 記憶が心を掠めたのであった。 今はそのソファも ナポレオン1世時代風の 長椅子にとって代わられていた。 【A・クリスティー作 「娘は娘」】 |
こちらは快晴の空が戻って来ました。
それにしても昨夜から今朝の冷えたこと!
そうそう心配していた桜、我家から見える限りでは、
染井吉野はその色を失いつつありますが、山桜は健在。
遅かれ早かれ、その花を散らす事になると思うのですが、
今だけでもほっと安心です。
さて、A・クリスティー作 「娘は娘」。
読了したのはつい 【先日】 の桜の樹の下。
この本、英国の中・上流社会のお茶シーンや格調高いインテリア等など・・
詳細に記されているものですから、まだ読み終わってもいませんのに、
こちらにも再三登場させたものです。
今更の感もしますが、一応感想など書き留めて置く事に致しましょう。
繰り返しになりますが、この本は彼女には珍しく、推理小説ではありません。
従って謎解きがない分、私の大好きな(上記のような)描写が、
ふんだんにあるのかも知れません。
本の内容は、タイトルが示しますように美しい未亡人の母、アン と
一人娘の セアラ の、“アンの結婚話を契機に起こった、
母娘の心の葛藤・・” とでも申しましょうか・・。
仲の良い母娘に、良くある話・・と言えばそれまでですが、
ここでもクリスティーの細やかな筆が冴え渡っています。
ミス・マープル 物でも感じる事ですが、女性に対する洞察力はさすがです。
又、アンの忠実なる女中、(この言葉は、今では死語ですが、
ここではそのまま使わせて頂きます) イーディス の存在も際立っています。
それにしても摂政時代風、ナポレオン1世時代風、ビクトリア時代風、ジョージ朝風・・
枚挙に暇(いとま)がありません。そして、ここでも炉の火と蕾の薔薇が・・。
そして次も又々、ミス・マープル物です。表紙の編物の挿絵がそれを物語っていますね。