大島弓子さんを知っていますか?小泉今日子さん主演で「ぐーぐーだって猫である」という映画が封切られ?ましたが、その作者が大島弓子さんです。大島さんが最初にブレイクしたのは”ミモザ館でつかまえて”....タイトルからサリンジャーのライ麦畑でつかまえてを想起されたように....イノセント...喪うということ...愛をテーマにしたものがたりです。
わたしが少女漫画にはまっていったのは十代の後半でした。少女時代から本がすきで図書館から父の書棚、暮らしの手帖、週刊朝日、リーダースダイジェスト、高橋和己、三島、大江、倉橋由美子、カポーティー、ブラックウッド、シムノン、グリーン、モーリヤック、クラーク、ハインライン....なんだってよかった。本ならなんでもよかった。本さえ読んでいれば”向こう”に行けた。....
なぜ本を読むのか?異世界へいけるからです。想像は羽ばたき飛翔する。ここではないどこか、いまではないいつかに向かって旅することは、現実とのどうしようもない違和感...現実と擦れ合うイタミを癒してくれたのでした。
けれども、飢えを充たすように読んできて...10代の後半...その魔法が消えかけてきた。本を探して探して読んでも...以前のように満たされなくなっていた。そのとき漫画はあったんですね。そこにあったのはエッセンスそのものでした。文学をたぐってたぐってようやくたどりつける一滴の至福がそれこそ一作につき水晶の小壜一本分あった。おりしも萩尾望都、山岸涼子....など、高い文学性とみずみずしい叙情性、繊細な心理描写があいまって少女漫画は黄金時代を迎えようとしていた...ありとあらゆるジャンルがあり実験がされました。
そのなかで繰り返されたのは”此処はわたしの場所ではない”というこ主旋律そして”傷痕””愛””再生”であったように思います。少なくともわたしが惹かれた作品はそうでした。それは存在そのもののイタミなのでした。自分のいるべき場所はどこなのか...ポーの一族のエドガーとアラン、トーマの心臓のユリスモール、スターレッドのスカーレット、日出る処の天子の厩戸、ダリアの帯、....”此処ではない場所”はどこなのか彼らは絶望しそうになりながら渇望します。それは当然作者である三人の問いかけでもあったわけです。
此処から飛翔する翼となるものは...それはほぼ愛のようなものなのですが、三人三様です。強いていうなら萩尾さんの場合は思念、祈りであり、山岸さんは行為であり、大島さんの場合は天から降ってくる光や海に降りつづける雪のようなもの...でした。三人とも此処では得られないこと、死することでしか”向こう”にはいけないことを知っていて、それでもあきらめはしないのでした。
此処...わたしたちが生きている現実....壁のようにとりまいている、学校、政治、社会 蟻の這い出るスキマもないほど構築された歴史、実は厳然とある身分差別、絵空ごとの平和と平等....それらのものと自分の内面の感受性や認識とのギャップ...を埋めるもの、埋められなくとも橋になりそうなものをわたしたちは欲していたのかも知れません。
70年安保の歴史的敗退、そして浅間山荘、よど号事件は日本の若者たちのある方向性を殺してしまった....日本でサブカルチャー、オタク文化が隆盛したのはいきどころのいないエネルギーの持って行き場のように思えます。寛容なひとびと、自分と社会の折り合いをつけられるひとびとはいい、けれども埋めようがないひともいます。不登校とかニートとか、それは社会への不適合とは言い難いとわたしは感じています。
こんな理不尽な世界に適合しようとしたら自分の中のやはらかい何かを殺さなければならないからです。生きているうちにひとは幾度傷つき自分を殺すことでしょう。殺さないためにはどうしたらいいのか。強い使命感を持つ、あるいは仮の世であると認識する。自分の趣味に没頭する。あくまでも冷徹な意識を持つそれとも酩酊か、盲いになるか、或は隠棲か行動か。
本、そして少女漫画はわたしにとっていたみをやはらげ、生きる力を奮い起こしてくれるものでした。そして語り、も自らを癒すだけでなく、聴き手を癒すことさえできる、生きる力を呼び起こすことができるものでした。語りに出会い、自分にもその力があることを知ったとき、わたしは自分の手のうちにはじめてひとを癒すことのできるアイテムを見つけたのです。わたしが語るのはほんとうに語ることが好きだから、語ることで自分を癒し、聴き手からいただく波動で力をいただき、聞いてくださる方のなかになにかを呼び起こさせていただけるからです。
ことばを磨く、ものがたりをつくる。デッサンの力を身につける代わりに声を磨き、そしてなにより自分の内なる声に耳を傾けます。此処はどこだろう、どこが痛むのだろう、わたしはどこに行きたいのだろう。そのためになにをすればいいのだろう。
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