遠い森 遠い聲 ........語り部・ストーリーテラー lucaのことのは
語り部は いにしえを語り継ぎ いまを読み解き あしたを予言する。騙りかも!?内容はご自身の手で検証してください。
 



.......宗佑は自殺しました。美知留の心まで自分のものにできないことを知ったからです。宗佑には幼い頃、母親から捨てられ親類中をたらいまわしにされた過去がありました。彼は美知留とあたたかい家庭をつくることを夢みていましたが、それがかなわないこと、生きていれば執拗に美知留を苦しめてしまうことから、美知留を自由にしてあげるという遺書を残してゆきます。実はその自殺も美知留を縛ろうとする行為....の一面があるのですが....。罪悪感から美知留は姿を消します。

   瑠可は日本選手権で優勝します。性同一性障害について記者に質問されますが、瑠可は自分がモトクロスに挑むのは性差を超え、男と対等に臨めるスポーツであるからだ.....と堂々と答えます。しかしカミングアウトはしませんでした。シェアハウスでともに暮らしていたエリーとオグリンが結婚し去ってゆきます。タケルは瑠可に美知留をさがしに行こうと誘います。

   ふたりは美知留が身を隠しているかも知れない銚子の海岸で夜を明かします。そしてタケルは瑠可に姉とのトラウマによって女性に恐怖を抱いていることを告白するのです。美知留は宗佑の子どもを宿していました。その子とともに生きてゆこうとする美知留にタケルと琉可はシェアハウスで子どもと4人いっしょに暮らそう と呼びかけるのでした。

   
   このドラマで作者は何がいいたかったのでしょう。トラウマの再生産....親から受けたネグレクトが宗佑のDVの原因でした。美知留の母の奔放さ、自分が母親の荷物に過ぎない...という心の傷は美知留の自信のなさ優柔不断さにつながっています。それが美知留を不幸にしているように見えます。タケルも姉から受けたトラウマから女性と性的な関係に入ることができません。こうしてみると瑠可の性同一性障害だけが天からの傷痕なんですね。瑠可は家族から愛されていました。そしてその瑠可の美知留への一途な変わらぬ想いが原動力になって物語を支え、登場人物を変えてゆくようにわたしには思われました。

   美知留の母である千夏や宗佑のありようをとおして性に依存する愛は否定的に描かれています。けれども宗佑の暴行から生まれた子どもを中心に瑠可と美知留とタケルのあたらしい生活ははじまってゆくのです。そしてその生活によってトラウマが癒されていく、負の連鎖が消えてゆくことを暗示してドラマは終わります。家族のありようとしてセックスレス、また血のつながりだけでなく、他人同士が寄り添うスタイルの可能性が語られていました。トラウマと向き合って生きてゆくために乗り越えてゆくために他のひとのあたたかい手と本人の気づきが必要だということが語られていました。

   脚本についてオープニングや伏線の張り方はよかった、マグカップが絆の象徴として使われていたのが印象的でした。ですが最終回は無駄な展開が気になりました。脚本の偶然はすべて必然であるのだから、やたら見る人をひっぱるようなたとえば交通事故とか...は要らないなと思います。もともとは悲劇として終わるタイプのものがたりと思うのですが、希望を残した終わりになった、その分インパクトが失われたのは否めません。途中でもどかしさがあったのですが、なにかノバラの香りのような魅力がありました。

   わかい出演者たちは役になりきっていました。もうひとつ望むなら表情ばかりに頼らないで...それも眉間を寄せる、視線を宙に遊ばせるというワンパターン、簡単だけど、メリハリがつかないですね。かなしみや絶望もさまざまです。裏切られた苦痛と衝撃、自分の心が通じないもどかしさ、ひとの安否の心配....それぞれ表情は違うはずです。もっとからだで表現してほしい....表のセリフに頼りすぎ、その裏の心の動きがどう声に出る、体に出る....。ですが、このドラマはかなり面白かったです。
   

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