遠い森 遠い聲 ........語り部・ストーリーテラー lucaのことのは
語り部は いにしえを語り継ぎ いまを読み解き あしたを予言する。騙りかも!?内容はご自身の手で検証してください。
 



       セシリア

    水野英子は1939年の生まれ、手塚治虫の漫画に驚愕し漫画家を志したといいます。....少女まんが史上に燦然と輝く水野英子は伝説のトキワ荘の住人でもありました。トキワ荘に住んでいたのは手塚治虫 寺田ヒロオ 石森章太郎 赤塚不二夫 藤子不二雄 水野英子 鈴木伸一 森安なおや よこたとくお つげ義春 .......多くが鬼籍に入られました。

    水野英子は少女小説の匂いを色濃く受け継いだ母子、友情、バレーものなど揺籃期の少女漫画から近代の少女漫画の扉を開いた先駆者です。最初の長編 「銀の花びら」には長編手塚治虫の絵の影響が見られますが、北欧神話などからインスパイヤされたと思われる「星のたてごと」で華麗な水野英子のスタイルがほぼ完成.....のちにつづく少女漫画家に多くの影響を与えました。出版社からの要請もあったようですが、再話者でもありました。「白いトロイカ」には原作(映画があると、水野英子のアシスタントをした方から聞いたことがあります。「ローマの休日」「奇跡のひと」は映画からの描きおこし、「セシリア」はネイサンの”ジェニィの肖像”をモチーフにしたものです。映画もあったかもしれません。

    わたしが水野英子さんの熱烈なファンになったのは「白いトロイカ」(1964年連載開始)の頃です。このものがたりはロシア革命(実態とは異なる)を縦糸に農奴の娘ロタ(実は皇帝に刃向かい殺された貴族フョードル伯の娘ロザリンダ)とロタを愛する貴族のレオ、コザックのアドリアンの恋を横糸に織り成した歴史ロマンでありました。水野英子こそは 少女まんがに男と女の”愛”を描いた最初の漫画家でした。さながら運命の糸に結ばれたふたりは自分たちの運命をうたがうことなく一途に求め合うのです。

    ロザリンダを愛するレオは金髪、皇帝を狙う黒い鷹・アドリアンは黒髪.....この構図は木原としえの「エメラルドの海賊」を思い起こさせます。少女をめぐる黒髪のナイーブな青年と麗しい金髪の若者、ふたりの青年の間には信頼と尊敬があります。皇帝の台詞に....「ロザリンダは幸せな娘よのう...このように男らしい男たちから愛されるとは....」とありますが、これは読んでいる少女たちの夢でもありました。ロザリンダのようにうつくしくありたい、強い男たちに愛されたい....というほのかな夢.....。

    もし「白いトロイカ」がなければ、「ベルサイユのばら」の存在もなかったのでは....と思うのです。というのも池田理代子さんは貸本漫画でデビューしたのですが、「祖国に愛を」1973年........構図が「白いトロイカ」そっくりでドレスの模様だけがマーブル模様になっていました。

     当時は絵柄を真似することはそうとがめだてされることではありませんでした。ロシア革命→フランス革命 黒い鷹→黒い盗賊 ロザリーの髪型は髪をおろしたロザリンダにとても似ています。インスピレーションを受けたのかもしれませんが、それは「ベルサイユのばら」の価値を損ねるものではなく、水野英子が多くの少女漫画家に影響を及ぼす華麗さ、ストーリーテラーとしての力、開拓者精神をもっていたことにほかなりません。

     もうひとつ1967年の「ブロードウェイの星」をとりあげて見ましょう。....少女・ステファニア・ロウがスターへの階段を上ってゆくものがたり.....母親は娘の夢のため身を粉にして過労で亡くなりスゥはひとり夢を抱いてブロードウェイに向かいます。そこでスゥは自分の出生の秘密、白人と黒人のハーフであることを知ります。演出家ノーマンはスゥと友人でスターをめざすジーンに”熾火”の演技をするように命じます。黒人の大プロデューサークラウンはスゥが自分の娘であったことを知り、ミュージカル「マリー」の主役に抜擢します。

     スゥは断り、オーデションを受けなおし、自分の力で役を勝ち取ります。マリーは混血の少女のものがたり.....役つくりに悩んだスゥは南部で肌を黒く縫って 黒人の苦しみを知り みごとに期待にこたえます。熾火のエチュード、ドレスが届けられるところ、姿を変えて役をつかむところなど 身内すずえは「ガラスの仮面」のヒントを得たのではないでしょうか。
    
    水野英子は”麗わしのサブリナ”をベースにした「すてきなコーラ」で少女まんがにおけるラブコメを確立、ハロードク ビーナスの夢 赤毛のスカーレットと描きつづけ 「ブロードウェイの星」で人種問題、「ファイヤー!」「シモンの夏」で60年代のロック世代、70年代のヒッピーの風俗を描き、自らも未婚の母になりました。ジャンルとしては①神話、伝説 から想を得たもの ②映画の再話によるラブコメディあるいはドラマ ③ 60年~70年代のアメリカをベースにした創作 ④ その他.....今までの少女漫画家になくジャンルを問わない作家でした。こうして振り返ると水野英子は神話・ファンタジーから一気にアメリカのポップカルチャーに飛んで行ったようです。わたしは事故で片腕を失った青年が日本アルプスを縦走する....その途中で見た幻影と山へのぼったことで再生してゆく「旅」という作品がすきです。テーマは一貫して”愛”男と女の恋を少女漫画にとりいれた漫画家でした。今 気がついたのですが 終盤になって 作品の向こうに”母性”が見えるようになったように思います。水野英子の人生にリンクしたものがたりをもっと見たかったなぁと思います。

        川の向こうの家  少年は盲目になるのも間近となったある日 貯めたお金を握り締めて川向こうにわたります。川向こうには娼婦館があって 少年はそこにいる水色の眼の娼婦マドレーヌに会いたかったのです。マドレーヌは川のあちらであこがれていたときとは違って見えました.......梳いてない髪 眼の周りのしわ....けれど その眼はうつくしく.....


少女漫画の中興の祖、西谷祥子も好きな漫画家に水野英子をあげています。水野英子は画力も文章力もありましたが、どちらかといえば視覚的な漫画家でした。水野英子の少女漫画におけるヒロインの「生」はプリミティブで骨太。運命に翻弄されながら原初の力強さを失っていません。考えるというよりは本能や感覚に従って生きるタイプです。

  .....西谷祥子にしてはじめて少女まんがの主人公の少女は、あるいは少年は人生にたじろぎ おぼろげながら「生」とはなにか考えるのです。主体としての自分から客体としての自分、視点の転換が起こります。ことばをかえれば西谷祥子は少女漫画に文学性を吹き込んだ漫画家です。その影響を受けた岡田史子がいて、萩尾望都は岡田から多大のインスピレーションを受け 少女まんがはサブカルとして絢爛たる花園となったのです。

        星のたてごと
    
所有作品 

長編...「銀の花びら」「星のたてごと」以上単行本「すてきなコーラ」「白いトロイカ」「セシリア(総集編)」「ハロー、ドク」「グラナダの聖母」「ハニーハニーのすてきな冒険」「ブロードウェイの星」「ビーナスの夢」「赤毛のスカーレット」「ファイアー」連載された雑誌からはずしとじたもの

短編....「ふたつの太陽」少女フレンド版 「ガラスの天使」「月とベニスと白いばら」「エリの窓」「トゥオネラの白鳥」「にれ屋敷」「三つの愛の物語」「川の向こうの家」「10月のセラフィーヌ」「エレクトラ」「シモンの夏」「旅」「ローマの休日」「奇跡のひと」その他ぶーけ コンパクト 別セブンティーン収録作品本のまま所蔵
そのほか 紫色のドレス他 絵物語多数。そのうち画像をUPします。

.....次回は西谷祥子、つぎに岡田史子 萩尾望都 大島弓子 山岸涼子を本流として あすなひろし、牧美也子、武田京子、八代まさこ 樹村みのり 飛鳥幸子諸氏のことも書いてゆきたいと思います。

水野英子の部屋は

ウィキペディアは→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%87%8E%E8%8B%B1%E5%AD%90

※少女漫画史① 男性作家と母物の時代はあとで書きます。



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