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以下抜粋
1 個人の情報コントロール権の侵害
極めて重要な基本的人権であるプライバシー権の核心的内容は、情報主体の「事前の同意」による自己情報コントロール権にあります。
国民にマイナンバー法がどんなものか十二分に説明しないでマイナンバー法を施行しようとすることは、政府が個人情報の活用の推進を優先し、国民の情報コントロール権をないがしろにしているといえるでしょう。つまり、個人の力の及ばないほど国家の権能を極端に強力にしようとする発想そのものが、個人の自由と人権を軽視していることを表しています。
兵庫では自衛隊募集の便宜を図るため、神戸市役所が自衛隊に住民登録記録を市民に無断で閲覧謄写させてしまうという事件もありました。マイナンバー制度を肯定する考え方は、国家は決して国民の人権を侵害しないだとか、公務員は決して間違えないという無謬性を信じるユートピア的な発想で、非現実的です。
2 個人情報流出の危険性 公務員による情報漏えい
具体的には、「マイナンバー」に含まれる情報が、税と社会保障全般に及ぶということは、私生活のさまざまな分野の個人情報を含むものです。たとえば、どこの病院にどんな病気でかかったかという病歴など他人に知られたくない情報も含まれる ことになるわけです。
このような情報が1つの番号の下に統合され、刻々と集積され、国・地方公共団体によって一元的に管理されます。しかし、もし当該管理に欠陥があり、それにより情報が流出するようなことになれば、深刻なプライバシー侵害が発生するのです。現に情報管理を徹底しているはずのクレジットカード会社、金融機関や保険会社などからも毎週のように個人情報の漏えいが起きています。
そして、マイナンバー制度で「名寄せ」された情報が漏えいすると、いわゆる「なりすまし」による被害が発生する危険も高まり、最終的には個人に回復不能の損害を生じさせる危険性があります。しかも、一挙に大量に。
わかりやすくいうと、例えば、ご家庭の印鑑は、実印、銀行印、認印などをその用途に応じて使い分けているはずです。宅配便を受け取るときに実印をつくことはまずないでしょう?つまり、誰でも重要度のレベルに応じて印鑑を使い分けることで、個人情報である印鑑の悪用を防いでいるわけです。ところが、個人情報を一元化したマイナンバー制度のICカードを広くさまざまな分野で使用することは、言ってみれば、ご家庭の印鑑を実印に一本に限ってしまい何にでも使うようなもので、これが大変危険なのは明らかでしょう。
現に、すでに早くからソーシャルセキュリティーナンバー(社会保障番号)制度を導入している「マイナンバー先進国」のアメリカでは、不法移民が職を得るために盗んだり、死んだ家族に成り済ましてナンバーを使い続け、年金を受け取るなど、いわゆるID詐欺も多く起きていて、全米で年間1,000万人が被害に遭い、過去5年間、全米で最も多い犯罪はID詐欺となっているのです。
3 個人情報流出の危険性 サイバー攻撃と安全保障
日本でもコンピューターシステムへの不正アクセスも深刻化しており、防御との「いたちごっこ」が繰り返されているのが実情です。ハッカーやクラッカーによる不正アクセスやサイバー犯罪を防ぐのは不可能です。
このようなサイバー犯罪などが絶えないネット時代には、個人情報の集約と集積は、かえってプライバシー保護の点から危険なのです。
そして、個人情報のリスク管理のためには、高度な情報セキュリティーを施すことが必要ですが、現在でもなお、サイバー攻撃などから完全に防御できるシステムは構築されていません。むしろ、国の枢要機関のホームページなどが他国からのサイバー攻撃で乗っ取られるなどという事件がしょっちゅう起こっています。
そして、防御能力を上げても攻撃側も能力を上げるいたちごっこが続きます。
もし、日本に住む個人個人の情報が一元化された結果、他国から狙われ漏出したら、日本人全体の情報が他国に人質に取られるようなものです。
政府は番号の当初の利用範囲は社会保障と税、災害対策に限定するとしながらも、施行から3年後をめどに範囲拡大を検討しています。そうなれば情報流出などのリスクもさらに高まるのです。広い意味での国家安全保障のためにも、リスク=個人情報は分散しておくべきで、行政への情報一元化は極力避けるべきなのです。
4 費用対効果のアンバランス
政府はマイナンバー制度の一番の目的は、行政事務の効率化としており、確定申告や年金受給などの手続きが簡単になる利便性もうたわれています。
社会保障面では介護や保育などにかかる費用を世帯ごとに把握でき、その負担に上限を設ける新制度が構築できると説明されています。
けれども、行政実務の現場で苦労するのは、同一の世帯かどうかの判断で、個人に番号を振ってもこの問題はなくならないのですから、「世帯ごとに把握できる」というのは嘘です。
また税務面では、扶養控除の申告などで不適切な案件があぶり出せる利点があるといっていますが、しかし、別に個人や法人のお金の出入りを照合するシステムではないので、大幅な税収増にはつながるわけではありません。そもそも、「マイナンバー」を導入しても「正確な所得の捕捉」が非現実的であることは、2011年6月30日に発表された「社会保障・税番号大綱」で政府自らが認めるところです。
さらに、政府はマイナンバーを低所得者に還付金を出す給付付き税額控除にも使えると説明していますが、マイナンバーは住民基本台帳の住民票を基に個人情報を管理するので、さまざまな理由で住民票の住所に住んでいない人、住民票さえない人々(闇金融に追われている多重債務者や、DV夫から逃れている妻子など)は、公的サービスから締め出されることになりかねず、社会的弱者が社会から排除されてしまう側面を持っています。
このように、マイナンバーの効果が実はたいしたことがない反面、そのシステム構築にも莫大な費用がかかります。政府は六千億円とされた初期費用は二千億円程度に圧縮できると見込んでいますが、仮にサイバー攻撃などから完全に防御できるシステムが構築するとすると、その構築費用は数兆円という巨額になると予想されています。
ところが、政府はシステム構築費用が最終的にいったいいくらかかるのかについても、法案の閣議決定の現在に至っても未だに明らかにしていません。さらに、ランニングコストも少なくとも毎年100億円単位でのしかかることは政府も認めています。
初期費用はもちろんのこと、こんな維持費用を国民が新たに負担し続けるのであれば、費用対効果の面でマイナンバー制度導入の意味は全くないと言えます。
そもそも、政府は、マイナンバー法を「正確な所得捕捉」と「税と社会保障一体改革」のために必要だと説明してきましたが、「税と社会保障の一体改革」では税制に関しては、消費税増税を先行させ、社会保障の充実は後回しです。
となれば、「社会保障の充実」と「公平な税制の実現」というマイナンバー制度導入の目的や理念が空約束に過ぎません。
5 結論
以上のように百害あって一利か二利程度しかないマイナンバー制度の導入は、絶対にやめるべきです。
このような重大な弊害が指摘されている制度を強引に導入しようという安倍政権には、表向きの説明とは別の、なにか隠している理由があるのではないかと思われます。
それが、国民の総背番号制によるがんじがらめの管理ではないかと疑う理由は十分あると思うのです。