中央本線の特急「あずさ」「かいじ」では、長らく国鉄時代からの183・189系が充当されて来ましたが、JR東日本発足後の1994年12月3日から競合する高速バス路線に対抗すべく開発された振り子式機構を備えるE351系を充当する「スーパーあずさ」が新設され、2001年12月1日からは183・189系を完全に置き換えるべくE257系が停車駅の多い「あずさ」「かいじ」で運転を開始し、長らくこの2形式による体制が続きました。しかしE351系の老朽化による代替とE257系の東海道本線への転用が計画され2014年度にE353系の導入が発表、2015年7月25日に量産先行車が落成し2017年まで約2年余りの各種性能試験を実施し同年12月23日より定期の営業運転を開始しました。2019年3月16日ダイヤ改正で「あずさ」「かいじ」の全列車がE353系で統一され、同時にスーパーあずさの愛称は廃止されましたが、先代E351系に続いて車体傾斜機構を備えており、山岳地帯を走行しながら新宿〜松本間の225.1キロを2時間半で走破する列車が設定されています。
未来的なフォルムが目を引くE353系。外観デザインは「伝統の継承」「未来への躍動」をコンセプトにしており、アルミニウム合金製車体に特徴的な先頭部はFRP成形品を組み合わせ、基本9両編成のクハE353-0と付属3両編成のクモハE352-0は貫通構造で自動幌装置を搭載し連結時は車両間の移動を可能にしました。カラーリングは前頭部にストリームブラック、南アルプスの雪を表すアルパインホワイト地に、あずさ号のイメージカラーであるバイオレットの細帯、窓周りには松本城の青味がかった黒をイメージしたキャッスルグレーを配しています。先述のように車体傾斜機構を搭載していますが、先代E351系が制御付き自然振り子装置だったのに対して空気バネへ圧縮空気を吸排気して車体を傾斜させる方式に改められています。
写真は何も基本編成のみの身軽な運用ですが、9両+3両での12両編成での運転もあり、特に2018年12月14日からは3両編成が富士急行線河口湖まで定期で直通する「富士回遊」が設定され、新宿〜大月間は「あずさ・かいじ」と併結し、大月駅で分割併合を行うなど機動性をフルに発揮した運用に就いています。
普通車車内。右に見えるのは大型荷物置き場のパーテーションです。インテリアは「活動的で明るい寒色」をコンセプトにしたグレー系に座席は沿線を流れる梓川の清らかな水面をイメージしたブルー系パターンが盛り込まれました。
グリーン車車内。車椅子対応座席以外はシートピッチを拡大して2列+2列の設置になっています。天井や妻面に配された赤色は沿線の特産品である葡萄の色をイメージしているとのこと。
瞬く間に中央本線の特急列車を全て置き換え主力に躍り出たE353系ですが、2023年3月20日より新設される塩尻〜松本〜長野間の特急「信州」にも充当されることが発表され、地方都市間を結ぶ特急にも進出することになりました。今後とも長く主力車両として活躍が見られそうです。