現在の東急田園都市線には、東武鉄道に直通出来ない少数派の編成が在籍しマニアを喜ばせていますが、今回の8590系のそんな車両の一つです。かつては東横線に配置されていましたが、5050系の増備に伴い田園都市線・大井町線に転出し2007年から活躍を開始しました。しかし、大井町線在籍車は副都心線直通に対応出来ず置き換えられて来た9000系の転入で全廃され、いよいよ田園都市線の10両編成2本を残すのみとなりました。
43K運用で急行に充当される8694F。このグループは8000系をベースに有限要素法を用いたコンピュータ解析で設計された日本で初となる独自開発の軽量ステンレス構造の車両です。歪み防止の為に車体を下膨れの台形にしているのが特徴で、東急の電車で側面にも赤帯を付けた初の事例でもありました。外観が既存の8000系・8500系とは異なり、また混用された事も無い為区別されています。
日中の各駅停車運用に就く8695F。8090系としての登場は1980年で、東横線急行用として活躍しましたが、みなとみらい線への直通が決定すると、地下トンネル区間に対応するため1988年から制御電動車で非常用貫通扉を備えるデハ8590・8690を新製し非貫通の付随制御車との差し替えが施行されました。この時登場したのが写真の先頭車で、8500系の要素が加わった事から8590系と通称されています。この工事で、8090系5両編成を大井町線に、8590系は東横線に配置する状態が長く続きました。
特徴的な車体形状が良く分かる車内(デハ8694で撮影)です。9000系登場後の製造ながら、既存の8090系に合わせる為に座席の袖部はステンレスの手すり構成とし、天井には補助送風として扇風機を併設しています。しかし、7人掛け座席には中仕切りを設置し、車内放送は自動放送装置を設置するなど、9000系の設備を一部に反映させています。現在も自動放送は改修されながら使用され、半蔵門線の放送にも対応しています。
中間車の車内。基本的な構成は8500系中期車に近いですが、ドアガラス押さえの枠が異なっています(上の写真の8690はドア窓に段差がありますが、こちらは扉本体とほぼ平面)。
上の2編成は東横線の運用削減で、1998年にも一時的に田園都市線に転用されており、みなとみらい線よりも先に半蔵門線へ乗り入れ、地下鉄対応の目的を一足早くに達成しました。その後は東横線に復帰し2004年から、みなとみらい線直通を開始し所定の目的を達成するものの、僅か3年ほどで5050系に置き換えられてしまいました。大井町線に移ったグループが早々と全廃され、秩父鉄道や富山地鉄に譲渡されて行きましたが、この2編成は地下鉄直通対応車の本領を存分に発揮し現在も都心乗り入れを行っていることを考えると、実に幸運と言えるのではないでしょうか。8694Fは検査期限も迫っており、近いうちに2020系によって置き換えられてしまいそうですが、どうか廃車後は何処かの地方私鉄での再起を願わずにはいられません・・・。