2012年度で一般路線車をノンステップバスで統一した東京都交通局では、更なるバリアフリー化を図るべくフルフラットノンステップバスの導入しました。現在の国内向けに量産されているノンステップ仕様大型路線バスは中扉以降の車内後方に大きな段差が出来るため、これを解消するのが課題となっており過去にも車内後方の通路をスロープ状にした試作的ノンステップ車が在籍しましたが、全体で見れば少数派に留まり後年に一般的な仕様の新型車で置き換えられています。しかし2017年9月7日の報道で、床面をフルフラット化した車両の導入を発表し平成30(2018)年度末の運行開始を予定していることが発表され、製造メーカーに注目が寄せられました。手掛けたのは大型トラック生産で世界第3位を誇るスウェーデンのスカニア(Scania)社がシャーシ(製造工場はポーランド)を、ボディーはアジア向け輸出の実績も数多いオーストラリアのバス用ボディーメーカーのボルグレン(Volgren)社で、実に戦前以来となる欧州からの輸入車となりました。
海外市場での型式はN280UB4x2EBですが、日本で型式認定を受けた際には2DG-NB4X2BVJとされています。初めて上陸したのは2018年10月のことで、短尺を採用している在来車より車体が若干長く標準尺相当になることから各所で試運転を実施し同年12月25日より巣鴨自動車営業所に配置されたD902号車が都02系統(大塚駅〜錦糸町駅)で運転を開始しています。その後は2019年4月までに杉並・小滝橋・南千住にも配置され総勢29台が導入されました。カラーデザインも一新され一目で海外製と分かる外観からも非常に目を引く存在です。
配置されてからは主に山手線の北部から副都心の周辺で運用されていましたが、2023年3月〜4月の大規模な転属が実施され小滝橋・巣鴨より千住・北・江戸川・深川・有明の各所に転出し、これまで見られなかった湾岸部の路線でもその姿が見られるようになりました。
エンジンとその周辺機器をリア部に集中させているため、行先表示器を設ける一方で窓が無く排気口が設置されているのも日本車では見られないスタイルです。車体素材はアルミ製で、衝突事故などを考慮し強度を更に向上させています。
従来車両に近付けながらも、FRP成形品の座席や大型の窓など欧州車らしい雰囲気が漂う車内。座席はドイツのキール(Kiel)製品で、多様な国の製品が盛り込まれる仕様になりました。床材は灰色仕上げですが、無地ではなくフローリング模様が入り、間接照明と相まって高級感を出しています。また、試験導入に留まっていたUSBポートが本格的に設置され、Wi-Fi設備と共にサービス向上が図られました。タイヤハウス上の座席が設置されているのもバスマニアには嬉しいポイントです。
欧州メーカーが手掛けた路線バスの導入ということで注目されたフルフラットバスですが、車体が長いことから運用する路線に制約があることや価格の高さ(約3500万円とのこと)からか、その後は座席を削減した標準仕様の車両に再び戻ってしまいました。日本国内のメーカーがどんな手を打って来るのかと思っていただけに少々残念な結果です。2024年は都営バス100周年という節目の年になりましたが、次の110年、120年目にはどのような車両が開発されているか、今後に注目です。(2019年の記事を加筆)
※気付けば今年で開設から10年目に入った当ブログですが、本年最後の投稿になります。いつも訪問して下さる皆様に御礼申し上げますと共に、来年もお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。