ウード奏者 松尾 賢 のブログ(アラディーン主宰者)

ウード奏者、ダラブッカ奏者、サズ奏者、歌手、アラブ、トルコのオリエンタル音楽演奏家・作曲家である松尾賢のブログ。

サズのボディ割れの修理、ウードの逆反りの修理など

2020-08-09 23:08:50 | 音楽

お世話になっている新宿のトルコ文化センターに新たに届いた3本のサズですが、1本は目も当てられないような破損をしていました。

送って来た楽器屋の梱包が、まるでトルコ国内での輸送を前提にしているような簡易な梱包で、しかもソフトケースに入れて送って来たから、このような大惨事になった訳です。

こういう事って、日本人の視点から考えると本当に信じられないのですが、残念ながらトルコ人、やってくれます。

さて、単純な亀裂であれば直ぐに直せるものの、明らかに上から大きなモノが落ちて来て凹み割れしたボディ。凹みを何とか出来ないか色々試してみた結果、

一か八かフォークを差し込んだ事で、凸凹になったボディを矯正出来る事が分かり、

スタッフのNさんに手伝って貰って接着剤を注入し修理完了。

後は接着剤が完全に乾いてから、はみ出た接着剤を削れば良い所まで来ました。

さて、今度は以前入荷した7コース・ウード。

調整、というかリペアで約4時間を費やしました。

現在売約済みとなっているこの7コース・ウード、久しぶりに空気に触れさせようと、ケースから出し、少し音を出してみた途端、

「あれ?高音部が変だぞ?音階が演奏出来ない…。」

…、なんと、ウードは構造的に、普通はボディが凹むようになっているのですが、高音部用に延長されている指板が盛り上がって「逆反り」になってしまった、という珍しい状態になっていました。

↑ 写真では少し分かりづらい、というか見た目では、ほぼ分かりません。

ちなみに、私がメインで使用している7コースのウードは、購入した当初からボディが凹む「順反り」が酷過ぎて高音部が演奏出来ず、結局自分で指板をパテで盛り上げて直したのは、このブログでも紹介しましたが、

まさかボディ部が「逆反り」を起こすとは考えつきもしませんでした。

で、色々考えた結果、マスキングテープと紙ヤスリを購入して、逆反りしている高音部の指板を削って調整する事に。

削り過ぎないよう、慎重に削って、反りの状態を確認し、調整。

結局、満足行くまで3時間半ぐらい掛かりましたw

なんでそんなに時間が掛かるのか説明すると、一度削って、弦を張り直して試奏し、もうひと調整しなければならない不具合が分かって、また削り直したからです。

↑ 弦を張り直して、不具合がまだあるかどうか確認。根気のいる作業です。

↑ そして修理完了!

紙ヤスリで削る時は、ある程度削ったら、掃除機で削りカスを吸い取り、定規を充てて進捗状況を確認しながら慎重に進めて行きましょう。

きっと、この経緯、楽器の事が好きで無い人には対して面白くない話でしょうがw、

修理し終わって、思った通りに調整が上手く行った時は格別な思いになるのです。

つまり、楽器が楽器として蘇るのです。

日本では珍しいサズや、ウードを弾きこなすには、楽器の修理も調整も自分で出来るところは全て行わないといけない事は、私の師匠の常味さんから教わった事ですが、

こういう修理に関する経験を積む事も、演奏する上で、とても大切なのです。

と、信じています。


2月23日(日)は新宿のトルコ文化センターの楽器クラスの発表会でした!

2020-02-25 02:02:38 | 音楽

昨日は、お世話になっている新宿のトルコ文化センターの伝統楽器クラスの合同発表会でした。

私は主にサズの講師として関わっています。勿論ウードの生徒さんもいますが、サズ、ウード、ダラブッカも含めて生徒さん随時募集中です。その場合、私を指名してくださいませ。

新宿にあるトルコ文化センター
https://www.turkeycenter.co.jp/

さて、今回の発表会ではサズ・クラスからは3人の生徒さんが参加。皆さん、しっかりと弾けて良かったです。

特に、最近、生徒さんになったJ君。ギター歴も長く、かなりサズを弾きこなせるので、先月に弾けないと思ったけど、一応楽譜を渡しておいた難曲の「Hijaz Mandıra(ヒジャーズ・マンドゥラ)」という曲を見事に弾きこなしてきました。

私もJ君に触発されて、今回の発表会ではサズでAziza、そしてSamai Hijaz Refik Talat Bay を練習し、披露しましたw。

ウードで弾くのに慣れている曲をサズで弾くという事は、普段使う指使いや、楽器の支え方、視線とかが、全く違ってくるので、練習当初はかなり戸惑いましたが、まぁ何とか弾きこなしました。

自分にとっても、一生徒のような形で参加した発表会でしたw。

発表会の良い所は、長い時間をかけて練習し、挑戦してきた成果を、実際のステージで発表できる所だと思います。

それが成功しても、失敗しても、どちらも必ず今後の糧になる。

何事も場数をこなさなければ得られないモノがあるのですから、発表会という機会があれば果敢に参加して欲しいと思います。

講師を代表して取り仕切ってくれた荻野さん、そして立岩さん、並びに、参加された皆さま、大変にお疲れ様でした!


ウードのロゼッタの修理(その2)

2019-10-05 19:29:57 | 音楽

先月の9月の「ベリーダンスと音楽の夜」の時に、メンバーは気づいていましたが、私のウードのロゼッタ、つまりサウンドホールに貼り付けてある「透かし彫り」を修理して臨みました。

先日、ある一部の人たちにはとても好評だった、ウードの指板コーティングの記事の時に書きましたが、樹脂がサウンドホールからウードの内部に流れ込んでいた為、それを除去するために泣く泣くロゼッタを割った為に、約一か月以上、ロゼッタが半壊状態でした。

さて、修理するにしても、結構細かく割れてしまったロゼッタをどう修理するか考え、結局、マスキングテープで支えながら、強力瞬間接着剤でくっ付けて…、という形で作業を進めていきました。

1.先ずは一番嵌めやすいロゼッタの破片をマスキングテープで支えて、強力瞬間接着剤で接着する面を接着します。

2.接着し終わったところ。↓

3.細かく割れてしまったロゼッタの破片同士も、同じくマスキングテープで固定してから必要な部分を接着します。

4.ロゼッタの破片同士がくっ付いたところで、同じく嵌め込んで接着。

↑ ここまでは順調だったのですが、予想通り、欠損した部分があり、それは瞬間接着剤では全く太刀打ちできず、途方に暮れそうになりました。(下の写真の「空いた部分」の破片の一部が見つかりません)

更には、ロゼッタが細すぎて、瞬間接着剤では十分な強度が得られていない、という事も判明。

そこで、結局、最終選択肢だった、BONDIC(ボンディック)という、UV硬化液体プラスチック接着剤を使う事にしました。

この接着剤、付属のUVライトを使って塗った処に数秒照射するだけでカチカチのプラスチックになり、モールディングしたい処も簡単に盛る事が出来るうえ、強度も高いので、

想像以上に簡単に修理する事が出来ました。↓

この接着剤だと、粘性もあるので、マスキングテープで固定する必要もなく、付けたい場所に塗って破片同士を合わせて、UV照射すれば、速攻で固まります。

で、欠損した部分(青い線で囲ったところ)を盛って固めて補い、つなげて、くっ付けて固定します。

完成は以下の通り。(見え辛いかな?)

BONDIC、予想以上に使えるので重宝しました。

まぁ、接着剤、という意味では相当高額なのですが、ストレスなく、思った形で簡単に修理できた訳ですから良しとしたいと思います。


7コース・ウードの弦の再選択

2019-09-23 15:41:20 | 音楽

さて、指板コーティング後、操作性が最高に良くなったとはいえ、胴体部分に今までよりも4mm厚のエポキシ樹脂を盛り上げた為に低音部の鳴りが悪くなった問題を解決しようと弦の太さを変える事にしました。

元々、私の場合、今の日本でスタンダードな6コース・ウードの調弦(1.C、2.G、3.D、4.A、5.G(↓) 、6.D(↓))ではなく、

エジプトで学んだ時のエジプト・スタンダードな調弦
(1.F、2.C、3.G、4.D、5.A、6.F(↓))だった為、

帰国後、1コースに張ってある高音域のF弦を日本で入手する事から始めなければなりませんでした。

運良く、お師匠様の常味さんが既に様々な弦を試されていた経験があったり、知り合いにクラシックギターのリペアを手掛けている人がいたりして、様々教えて頂きました。

今でこそ、Amazonでウード専用の弦を直接購入できる時代になりましたが、私がウードを学んで帰国した2005年あたりでは、クラシック・ギター専門店まで行って、様々な弦を購入して試行錯誤するしかありませんでした。

幸い、そのリペアをしている方から「ウードの弦長から言うと、アルト・ギター弦が合うと思うよ」というアドバイスが功を奏して、そこから Hanabach や D'Addario のアルト・ギター弦を使用することにし、そこから弦の探求が始まりました。

さて、2009年にお師匠様から7コース・ウードを譲り受けてから、更に弦の探求が深まりました。調弦は以下の通り。
(1.F、2.C、3.G、4.D、5.A、6.F(↓)7.C(↓))

この頃には、1コースから3コースまで、釣り糸のフロロカーボンを使用し、4コースから7コースまでを様々な弦で試行錯誤しました。

家の近くにあるギター専門店が Hanabach のアルト・ギター弦をはじめ、多くの種類の弦を扱っていた為、Hanabach の青、緑、黄色、黒の弦を様々試してみた結果、結局、Hanabach の黒で統一することにしました。

そして、2015年、オーダーメイドで購入したトルコのVeysel Music 社のウードは今まで使っていたエジプト製の7コース・ウードより鳴りが良い半面、7コース目の C の音がHanabach の黒の6弦では何となく「か細い」感じがして、結局、Hanabach のバロック式10弦ギター用弦のD7弦を使う事にしました。

これがピタリ!と当て嵌まっていましたが…。

今回の樹脂コーティングで、この太い7弦でさえ「か細い」感じです。6コースも同じくボディを鳴らし切れてない感じ。それもそうで、良く見たら、このウード、低音側のボディが正中線から測ってみて少し幅が狭く、左右非対称でした。

このウード、高音部がキラキラ光る感じで、割と細い弦でも鳴るのは、高音部側のボディが大きかったからなんだ、と理由が分かった訳ですが、それはそれとして、私は結構低音弦も、お師匠様の流派のごとくガンガン鳴らしたいタイプなので、低音弦をどうするか、試行錯誤してみる事にしました。

6コース目(F)は、Hanabach の青ラベルの5弦が良いようで、そこを基準としました。ちなみに5コース(A)はオーガスチンの青の4弦。一番消耗する為に手に入りやすい物にしています。

そして、問題の7コース弦ですが、まずは、以前購入した際、音が重すぎてお蔵入りした Aranjuez の10弦ギター用D7弦を使ってみる事に。

…、ボディを鳴らすという意味では悪くはないが、なんかヤッパリ重いというか、重厚過ぎて、最終選択肢とはちょっと言えない感じ。

で、結局、Hanabach の10弦ギター用C8弦を使ってみたら、これが他の弦との響きとの相性があってピッタリでした!

ヤッパリ真鍮製の巻弦か銀メッキ性の銅の巻弦かの違いなのでしょうね。

最近は、1~4コースまでフロロカーボンのハリスを使用している為、巻弦部分も、キラキラと倍音が鳴って、なおかつ、軽やかで鋭い音でないと、ちょっとアンバランスさが出てくるので、Hanabach は最適な選択肢でした。

ともあれ、指板の改造以降、自分の楽器にストレスを感じることなく演奏できていることを思うと、今までは一体なんでそんな苦行をしていたのか、と思える位でw、

そういう意味でも、これらの弦で当分は演奏活動を進めていこうと思います。

参考までに私の7コース・ウードの弦は以下の通り。

1コースF、シーガーエース・グランドマックスFX4号
2コースC、ダイワ・ディーフロン8号
3コースG、ダイワ・ディーフロン12号
4コースD、ダイワ・ディーフロン26号
5コースA、AUGUSTINE青4弦、または、Hanabach 黒4弦
6コースF、Hanabach 青5弦
7コースC、Hanabach バロック式10弦用C8弦

ウードの指板の修理(その4:ウレタン樹脂コーティング:完成)

2019-09-15 14:43:00 | 音楽

結局、エポキシ樹脂コーティングの作業はある程度のサンディングで止めて、あとはコンパウンドで仕上げれば良かったにも拘らず、結局は削り過ぎてしまい、想像した形に仕上がりませんでした。

もう少し時間に余裕があれば、もう一度、エポキシ樹脂をコーティングして、コンパウンドで仕上げて、という事で良かったのですが、

実はお披露目したいライブに間に合わせたかったので、この作業とは別の事を考えないといけなかった訳です。

いろいろと調べた結果、ウレタン・クリアー樹脂でコーティングすれば削る作業も無い、という事でスプレータイプのウレタン樹脂を吹き付けて仕上げる事にしました。

こちらも様々なレビューを見て、選んだのが「ソフト99コーポレーションのボデーペン ウレタンクリアー」。

硬化が速いだけでなく、透明度が高く、黄変もしない上にツルツルで傷つかず、という優れもの。

ウードをマスカーで完璧に覆い、ウレタン・クリアーを、合計で10回吹き付けました。硬化時間は12時間と早く、

12時間後、結局吹きダレしてしまった処や、ゴミが付いたところを400番の紙ヤスリで削り取る作業も難なく行え、コンパウドで仕上げる事も出来ました。

結果は、完璧!満足行く結果となりました。弦による指板の削れは、今のところ全くありませんし、傷も擦り跡が付くだけで傷と言えるものではありません。

今後新しいウードを購入する際は、指板にゴルペ板を貼る事はやめて、このウレタン・クリアーでコーティングする事にしようと思っています。

さて、エポキシ樹脂コーティングによる音への影響ですが、やはり鳴りは少し悪くなります。特に私のウードのような問題の場合、低音の鳴りに影響がありましたが、

これは現段階で想像するに、弾き続けていけば結果的にはクリアできるようです。つまり別の部分を鳴らしていく、という事になるのでしょう。

それはそれとして、高音域の操作性については、指板の固さも含めて気持ち良く正確に音が出せるので、やはり苦労してやった甲斐がありました。

1.ソフト99コーポレーションのボデーペン ウレタンクリアー。これはお薦めです!

 

2.先ずはマスカーで完全に覆います。エポキシ樹脂の時にも、最初からこうするべきでした(泣)

3.後ろ側も完全にマスカーで覆います。

4.決行当日。丁度前日に雨が降ってくれていたので、ホコリが少なくラッキーでした!スプレーの吹き付け方は、YouTube に吹き付け方法のお手本がありますので、参考にしてください。
吹き付けて10分して、再度吹き付け。この作業を都合10回行いました。約2時間ぐらいの作業時間でした。

5.さて、説明書通り、吹き付け後、12時間で完全硬化します。液だれ、ゴミなどを400番ぐらいの紙ヤスリで軽~く削っていきます。
この作業もYouTube で参考動画がありますので、作業前に十分調べてから行いましょう。(便利な世の中だ!)
10回吹き付けているので、コーティング層はかなり厚いので安心してサンディングできますが、決してゴシゴシやらないこと!

そのゴシゴシをやってしまい、あわや、もう一度!という危機に陥りましたが、そこはコーティング層が厚かったために助かりました。600番の紙ヤスリで仕上げたところ

6.そして、最後にコンパウンドで仕上げます。車を持っている人なら良く知っているコンパウンド。粗目のコンパウンドを塗って表面をならし、仕上げのコンパウンドを使って鏡面に仕上げます。各コンパウンドごとに新しい専用の布を使う事。そうしないと綺麗に仕上がりません。この辺のこともYouTube でしっかり学べるので、是非とも作業前に学んでください。

7.完成!ツルツルのピカピカのカチカチに!
ただ、やはりエポキシ樹脂層が薄いところは指板表面の木の繊維が表れます。もちろん、音には何の影響もありませんし、第一に、木は繊維があるのが当たり前。
とはいえ、エポキシ樹脂層が厚い処は、完全にフラットな鏡面に仕上がります。

8.別角度から映してますが、こんな感じでピカピカ。

一番修理したかった胴体部分の指板とネックの指板の高さと、その接続部分の差もなくなり、完全な一体の指板となりました。

 
 
 9.エポキシ樹脂に張り付いたマスキングテープの残存部分を丁寧に剥がしている処。
 
 
 
 10.弦を張って完成!ロゼッタの修理はいずれ。
 
 
11.今回の修理した高音域の指板部分。以前修理した部分も合わせると、合計で6mm も盛り上げたことになりました。エポキシ樹脂部分は4mm。