来年にアラディーンの2枚目のアルバムを制作する予定で、その為の曲を今のところ2曲書き上げたのですが、(その内の1曲は今月の「ベリーダンスと音楽の夜」で披露する予定。)
ウードを弾き始めて10年が過ぎ、漸くマカームの音程も、楽器も安定して弾けるようになり、その間、師匠の常味さん始め、木村伸子、ハスィン・ジュベリ等、研究者、プロの演奏家と様々意見交換して来た中で、色々と蓄積して来た知識が、何となく形になって来た為、その基礎からやり直してみようと思い立ちました。
先日、久しぶりに渋谷のタワーレコードに行った時に、音律について分かりやすく説明している「音律と音階の科学(小方 厚著:ブルーバックス)」を見つけて早速購入。何故この本を購入したかというと、ピタゴラス音律から始まり、純正律、平均律の成り立ちなどが分かりやすく書かれていた上、53平均律について書かれていたからです。
53平均律に何故とても興味を惹かれたかというと、今までいろんな本を読んできて、現在のアラブのマカームの解説が53平均律で行われている事、ギリシア哲学がアラビア語に翻訳されていき、そこからアラブの音楽体系が、ピタゴラス音律を元に発展している事などが分かって来てはいましたが、
では、なぜ53平均律なのか、という事を、この辺りの歴史から繋げて解説している文章なり、本が見当たらなかったからです。
そういう意味で「音律と音階の科学」は、とても分かりやすい本でした。
さて、3月にサウジアラビアに演奏に行った際、強行軍スケジュールだった為、ドバイに2泊しましたが、その際、ケマル・ムサッラムのアテンドで、彼の懇意にしている楽器店に訪れた際、
「الموجز في السلالم الموسيقية و اللإيقاع و المقامات
(音階とイーカーとマカームの概要:ムハンマド・ザーファル・イマーム著)」という本を見つけて購入しました。
勿論アラビア語なので、私のアラビア語力では、内容をじっくりと読んで理解する事は当分先になりそうですが(苦笑)、それでも、各リズム、マカームについての解説位は読めるので、本棚の飾りになっていたこの本を久しぶりに開けてみました。
この本では、ピタゴラス音律を軸に、53平均律でオクターブ間(つまりドレミファソラシド)を示し、それに対して、各マカームが、何コンマ低いのか、高いのかを示しています。
この著者は、シリア人(またはシリアで学んだ)方のようで、シリアでのマカームの音程差を示してるのだと思うのですが、これが私が学んで来たエジプト、あるいは常味さんから学んで来たチュニジアのマカームの音程と微妙に違うのです。
師の常味さんがシリアのアレッポで学んだ時に「いや、予想してたけど、ラストのミが高いんだよ。経験的に、エジプトから北へ上がるにつれてラストのミが高くなるのは知ってたけど、相当高いね。」と言われていた事を思い出しました。
「アラブの音文化(スタイルノート)」という本の「都市に伝わる歌唱形式「イラキマカーム」(樋口美治・ナダ著)」の章で、マカームを53平均律で解説している所があり、それによると
「ド(9)レ(7)ミd(6)ファ(9)ソ(9)ラ(7)シd(6)ド」
で、この音程差は、私が学んできたラストとほぼ同じです。
が、購入したムハンマド氏の解説と、これまた最近購入した「The Music Of The Arabs(Habib Hassan Touma著)」では、
「ド(9)レ(8)ミd(5)ファ(9)ソ(9)ラ(8)シd(5)ド」
になっています。
ムハンマド氏の解説だと、ラストのミ(スィーカー)は385セントで、ラストのシ(アワジュ)は1087セント。
樋口氏の解説だとラストのミ(スィーカー)は362セント。ラストのシ(アワジュ)は1064セント、それぞれ1コンマ(約22.6415セント)違います。
ちなみに平均律では半音を100セントで示すので、平均律で言う所のミの4分の3音は(つまりミが4分の一音低い音)は、350セント。シの4分の3音は1050セント。
ところが、純正律のミは386セントで、シは1088セントなので、シリアで教わるラストは、ほとんど純正律のドレミファソラシドと同じだという事になります。
ほとんど、といったのは、ラストと純正律の長音階との唯一の違いはラ。ラストのラはピタゴラス音律のラと同じ(906セント)です。
ちなみに53平均律の長音階のラは883セントで、純正律のラは884セントなので同じです。
このラの音程の違いは、ウードの調弦が下からラ、レ、ソ、ドと完全4度で調弦されている事に起因しているからだと思われます。
うーん、やっぱり自分で試行錯誤しながら学ぶ方が面白いですね。
音律については一段落。
とはいえ、やらなければならない事がいっぱいあるので、忙しい日々は続きます・・・。