鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『赤目四十八瀧心中未遂:車谷長吉・著』

2012-09-04 22:56:22 | Weblog
蒸し暑い一日。夕方から雷。


先月は、八月だというのに、なにひとつ出来ず(いつもことだけれど)、しかも本も読めずにいた。
・・・で、九月になって、開放されたので、先週末は、以前から、読もう・・・読もう・・・と思っていた『赤目四十八瀧心中未遂』を読むことができた。
・・・この・・・~~できる・・・ということは、有難いことだと思いながら。
(~~したくても、~~できない・・・という状況程、ツライこともない・・・ような気がしている。顕著なところでは、食べたくても食べられないとか、眠りたくても眠れないとか、歩きたいのに[腰など痛くて]歩けないだとか・・・枚挙にいとまもございませんが・・・)。

さて、この著作。
青山五行・小池雅章先生ご推薦の本。

現代小説なのに、旧い時代のような錯覚に陥る。
暗い闇の中で、仄かにそして、鮮烈に輝く燐光のような物語である。

虚無と官能。

『私』こと生島与一は、世捨て人である。
職を捨て、友を捨て、流れ着いた温度のない街・尼崎の一室で、病死した家畜の内臓を腑分けして、串刺しにする作業をして、日を過ごす。まるで、自己懲罰のように・・・。
同じアパートに住む不気味な彫り物師・彫眉さんのその情婦であるらしい美貌の朝鮮人・アヤちゃんと情をかわすことに成る。

全てを捨てたはずなのに・・・背中に『迦陵頻伽』の刺青を背負う女との逃避行。
住む世界の違う二人のあっけない別れ。

全てを捨てたはずなのに・・・『私』は・・・。

全編を覆い尽くす孤独の暗く深い闇の中。
その中で、何の楽しみも喜びもなく・・・生きた少年のミイラのような『私』の日常。
全てを傍観したいのに、いつしか当事者となって、傍観される側に立っていく『私』。

生きている限り、見続けるだけ・・・なのは、許されないことなのかもしれない。
与えられた名前は、『生島与一』。
生島は、作者・車谷さんの故郷の瀬戸内海にある島。

虚無の中に、生きよ・・・というメッセージを感じるのは、私だけなのだろうか?