暑さの戻った一日。
いつまでも、いつまでも、しつこいくらい、覚えている記憶。
全部まとめて捨ててしまいたい記憶。
忘れたい記憶。消去したい記憶。
パソコンのメモリーは、ボタンひとつで、簡単に消去できる・・・というのは、ちょっと違うようで、何やら、内臓のハードディスクに残っていたりするそうで、パソコンを廃棄するさいに、業者さんに頼んでメモリーを本当にこの世から、綺麗に消し去る・・・という作業が必要らしい。
知らない第三者の手に渡ると、トンデモないことになったりするそうだ。
アルツハイマーだとか、脳の機能が低下したりして、5分前の事も覚えていられない病気だとか、先天的に脳に障害があって、記憶できない・・・なんて症例もあったりする。
脳に何等かのショックを受けて、一時的にこれまでの記憶がなくなってしまう記憶喪失・・・なんてのは、よくドラマにあったりもする。
記憶というのは、不思議なもので、或る日、何かのきっかけで、完全に忘れていた・・・と思っていたことを思い出した。
十数年前・・・。
お盆に親戚が集まるのが、イヤで、ひとりで、車で温泉地を訪ねた。
県の北部にある山間の温泉地で、今年の夏に訪れた蛍狩りをした場所とそう遠くないところで、渓谷を挟んで、宿泊施設が、並んでいて、私が泊った施設は、廃墟のようなボロい旅館で、一泊5千円くらいだったと思う(最近は、5千円でもよい旅館に泊まれるらしい・・・デフレ?とか、放射線の風評被害で、価格を下げているところも多いと聞く)。
それ以前の(デフレになる前の)普通に安価な宿で、その宿の一室から、上流に建つ高級旅館を眺めた。
あのホテルは、高そうだな・・・(実際、その高級旅館は、私の宿泊しているボロい旅館を見下ろすような上から目線の位置に建っていた)。
旅館の名前もなにやら、スカしたイケスカナく、格調高そうな名前であった。
渓谷の水の音が、絶え間なく響き、もう少し時季が、早ければ蛍狩りもできたらしい。
何だか・・・そんなことを思い出した。
とても、私らしい、シチュエーションだ。
高級旅館なんて、縁がないのだな・・・たぶん。
そんなことを思いながら、ひとり掛けのソファに座って、不味いお茶などのみながら、ずっと上流の旅館を見ていた。
旅館のHPには、チェック・イン15時とあったから、15時ちょうどに行ったのに、フロントのオバさんは、まだ部屋の準備ができていないから、16時にしてくれとフザケタことを言った。
仕方がないので、周辺をドライヴしながら、時間を潰した。
宿泊料も安いが、サービスも最低だった。
食事が済んで、お風呂だけは、掛け値なしの源泉に、2,3度浸かった。
普段テレビも見ないから、涼しい部屋で、本を読んだ。
『嫌われ松子の一生』という上下2巻を一晩で読み終えた。
県北の宿を検索していて、このボロいサービス最低の廃墟のような宿が、まだ淘汰されず残っているの知って、思い出した昔の記憶である。
こんな記憶、さっさと消去していいと思っている。
パソコンなら、業者に持って行って、完全消去をお願いするハードディスク内臓のメモリーと同じくらい価値のない記憶である。
・・・何故か今頃、思い出した次第。