朝、出かける時は今日の空のように、澄み切った気分だった。昨夜、井戸掘りが成功し、ブロックを積み上げて手押しポンプを設置している夢を見た。いよいよ決着の日が来たのだと思い、一刻も早く現地に到着したい気分だった。
私たちが家に着くと、既に依頼主は軽装になって作業準備をしていた。鉄管の中の砂を塩ビ管で洗い出し、鉄管に替って吸管を入れて水を汲み上げてみたいと言われる。ところが鉄管の中で、20ミリの塩ビ管が引っかかってしまう。
「これより細い塩ビ管はありますか?」と言うので、ホームセンターへ一緒に行き、16ミリの塩ビ管を最長の4メートルを買う。これに1メートル繋いで5メートルにして、鉄管を洗ってみるが、結果は同じだった。
次に4メートルの鉄管を引き抜いて、そこに20ミリの塩ビ管の吸管を入れてみるが、2.5メートルくらいのところから入っていかない。この場所では6メートル掘ることは出来ない。諦めるしかないと思うけど、依頼主は納得できない顔をしている。
「素人の井戸掘り」動画を見ても、簡単に上手くいく時と、どんなに手を尽くしてもダメな場所もある。同じ場所でほじくり回せば、石が集まってきてしまい却って困難になる。もう、場所を変えて掘るしかない。
場所を変えたり、掘り方を変えたり、それは依頼主が納得しなければ逆効果だ。作業の中心は依頼主で、私たちは道具を貸している手伝い人でしかない。最も簡単な方法は、3メートル4方の穴を手掘りで掘り進めることだが、それだけの広さと安全を確保する囲いが作れない。
そうなると振り出しに戻って、別の場所で鉄管か塩ビ管で掘り進めるしかない。どうせまた石があって掘れないのではと言う人もいるが、運が良ければ掘り進められるし、悪ければやり直すことになる。
まあ、人生と一緒。やる前からダメだと諦めるか、やってから考えるか、私ならやってみる。ダメならまたやり直す。諦めがつくまで繰り返す。さあー、依頼主がどう考えるのか、結論は来週に先延ばしされた。