膝のMR検査の日だった。「手術と言われたら、心電図の検査結果を見せ、脈拍数が低いことを言わなければダメだよ」と看護師をしている長女にきつく言われたので、毎日付けている血圧日記を持参して行った。MR検査の後、診察まではかなり時間があった。だんだん嫌気が増して来て、後日ということにしようかと思っていたら名前を呼ばれた。MR検査の結果、半月板に損傷があり「これが痛みの原因でしょう」と言われる。それから「ウーン、これはひどい」と言って、横3センチ、縦1センチほどの穴があいている部分を見せてくれた。それでどうなるのだろう?穴のあいた部分を埋めるような手術でもすると言うのだろうか?削ることは出来ても生めることは出来ないのでは?と思いながら先生の話を聞く。
「90度しか曲がりませんでしたね。リハビリをして様子を見ましょうか」と言われる。「いいえ、180度曲がりますが‥」「ああ、そうですか。曲がらないのは左の方ですか。痛みはどうですか?」「常時痛みはありません。ただ、同じ姿勢から次の動作に移ろうとするとギャーと痛みます」「うーん、痛くて歩けないようなことがあればまた診察しましょう。今日で終わりますね」「はい、ありがとうございました」。私は一礼して診察室を出たけれど、薬も無ければ温めるとか冷やすとかマッサージするとか、何も無いことになぜかがっかりしてしまった。この病院で手術を受けるという人は予約がいっぱいだからと4月になったと聞いた。人気が高いのに私は何もないのか。それを素直に喜べばよいのに物足りなく思ってしまうのはどうしてなのだろう。
MR検査を受けながら何年か前に知り合った友人のことを思い出していた。彼も先日MR検査を受けた。5年ほど前にガンが見つかり摘出手術を受けた後、定期的に検査を繰り返しているそうだ。私よりも1つ年上だが、ほぼ同年と言っていい。体力維持には気をつけていて、定年後は暇さえあれば10キロのジョギング、そして毎日100回の腕立て伏せ、50回の腹筋を行っていると言う。どうしてそんなに精力的に身体づくりを行っているのだろうかと尋ねたら、もちろん何時までも健康な身体でいたいと願うからだと当たり前の答えが返ってきた。けれども、彼にはカミさんの他に好きな女性がいる。しかも18歳も年下である。健康でなければ付き合っていけない気持ちはよくわかる。
18歳も年下の女性とどんな話をするのだろうと勝手な想像をしたけれど、よく考えて見れば50歳である。18年の違いは大きいけれど、50歳にもなればもう歳の差などは無いのも同然だ。歳を取ると、別に家庭に問題があるわけでもないのに、相手に不満があるわけでもないのに、人恋しくなる話はよく聞く。人生の最終コーナーに差し掛かってきて、もう一度自分を取り戻したいということなのかも知れない。私の中学からの友だちも、「友だち以上恋人未満」の人がいたけれど、最近は彼女の話を聞かなくなった。話しぶりからは「恋している」ことに間違いないと思うけれど、「老いたみっともない身体では会えない」と何かの検査の結果の後、そんなことをつぶやいていた。
「老い」への準備も人様々だ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます