太陽は明るく輝いているのに、風が強く吹いている。私は朝からの温暖差の変化に、テッシュが欠かせない。鼻水とおさらばする日はいつ来るのだろう。市川沙央さんの『ハンチバック』を一日で読み終えた。
今年の芥川賞に『ハンチバック』が決まり、直木賞と共に行われた授賞式を見て驚いた。電動車イスで登場した市川さんは、身体が曲がり、面長顔の障がい者だった。不謹慎だが、可哀想というより何だか怖かった。
子どもの頃、サーカスを見に行った時、せむし男が出て来たが、その時もなぜか怖かった。先日、書店に寄った時、入口付近に山積みになっていたので躊躇なく買ってしまった。彼女が「恥を忍んで」(と私は勝手に思っている)書いた小説だ、山積みのままでは気の毒だ。
けれど、最初のページから理解できない。〈head〉〈title〉〈div〉、何だこれは?読み進めるうちに主人公がipadを使って、エロい記事を金稼ぎのために書いていることが分かる。主人公は人工呼吸器をつけ、湾曲した胴体は固い矯正コルセットで固定され、話すことも出来ない市川さん自身のようだ。
主人公は、両親の建てたホームで何人かの障がい者と共同生活し、ヘルパーが料理や日常の世話をしてくれる金持ちで、〈妊娠と中絶がしてみたい〉〈私の曲がった身体の中で胎児は上手く育たないだろう〉〈でもたぶん妊娠と中絶までなら普通にできる。生殖機能に問題はないから〉〈だから妊娠と中絶はしてみたい〉〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です〉と書き綴る。
市川さんは授賞式で、「怒りだけで書きました。私に怒りを孕ませてくれて、どうもありがとう」と語った。小説の中でも、「息苦しい世の中になった、というヤフコメ民や文化人の嘆きを目にするたびに私は『本当の息苦しさも知らない癖に』と思う」と書いている。小説はのうのうと生きている健常者に向かった怒りに満ちている。
『ハンチバック』とは「せむし」を意味している。「私の心も、肌も、粘膜も、他者との摩擦を経験していない。金で摩擦から遠ざかった女から、摩擦で金を稼ぐ女になりたい」とどこまでも攻撃的である。
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