利上げは市場の予想通り見送られた。言うまでもなく月初の米5月の雇用統計での前月比での雇用者の増加数(農業部門を除く)が、3万8000人(市場予想16万人)と失速状態になったことが大きく影を落とした。声明文はその冒頭で「労働市場の改善ペースが減速した」とした。市場が注目した次回7月の利上げ見通しについては、記者会見にてイエレン議長はどの会合も“Live”として利上げの可能性はあるとしながらも、声明文も含め利上げを示唆するスタンスは見られなかった。しかもFOMCメンバーが示した金利見通しが、全般的に引き下がっていたことから、利上げ見通しは下方修正という受け止め方が広がった。
市場参加者の印象としては「驚くほどハト派化」というものまで出る内容。金市場では7月は元より9月の利上げも見送られるとの見方が広がることに。この点では、FOMCメンバーの見通しで、年内に1回の利上げを見込む参加者の人数が3月の1人から6名に増えていたことも、実施されても大統領選の12月に1回との見方を高めることにつながっている。この6名はFRBの正副議長を含む理事が入っているとみられる。
総じていうと足元で継続的かつ確たる拡大が見通せない米国経済指標や不安定な国際金融情勢の中で、3月の時点までに想定していた利上げシナリオが見直しを迫られているということ。今回の利上げ見送りの要因になったものとして、イエレン議長は具体的に来週23日の英国の国民投票を挙げている。以前からFRB高官からリスク視する発言が見られていたが、不透明要因として強く意識されているようだ。
したがってまず“Brexit”問題の様子を見て、今後の内側(米国)の指標を含め再評価しようということか。上がらない生産性や期待インフレ率など、下手をすれば失速になりかねない状況にも危機感が強まっているようで、その中で無理して利上げしなくてもいいのではないか、加速見込みでなく、むしろ加速してから動いたほうがいいのではないかとのスタンスに傾いているように見られる。思うに、FRB理事の一人「ブレイナ-路線」に集約されつつあるということ。
金市場を見る上で印象的だったのは、「並外れた状況」すなわち発生する可能背は非常に小さいものの、「徹底的な取り組みが必要になった場合」には、ヘリコプター・マネーの出動もありえるとして、FOMC記者会見で初めてこの単語が語られたことだった。景気後退そして回復というこれまでの経験則から導かれる処方箋は時代暮れで使い物にならないという側面もありそうだ。投資マネーは来週の英国の国民投票に向けて、ますます委縮しそうだ。
15日の通常取引は小幅高で6営業日連続高で終了していた金は、声明文、経済見通し、さらに議長記者会見の内容を受け1300ドル台に。さらにその後のアジアの時間帯にゆっくりと高値を追う展開となっている。来週に半ばに向け、上値を試す展開となりそうだ。