先週から今週初めにかけてのNY金市場で目立ったのは金ETF(上場投信)の動向だった。
金ETFの最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールドシェア」の残高が先週末20日1日で16.66トンもの増加を見たこと。1日の資金流入としては2022年1月21日の27.59トン以来の規模となるもの。
この日は、米国で10月に始まった新会計年度を前に、与野党の妥協で9月26日に成立したつなぎ予算の期限が切れる日。この日までに予算案が決まらないと、翌日には一部政府機関の閉鎖などが想定されていた。
17日までに下院のジョンソン議長を中心に上下両院の超党派で合意したつなぎ予算案を、イーロン・マスクがXで猛烈に批判。下院の保守強硬派も反対で、18日にはトランプ次期大統領が反対を表明。このまま採決しても成立は難しいということに。
19日は共和党が過半数を握る議会下院でトランプ次期大統領の意向をくんだ独自の法案を採決に持ち込んだものの、民主だけでなく共和の強硬派も30人以上が反対票を投じて否決された。連邦政府の借金の上限決める法案を無効にしようとのトランプ案に債務増加に反対する共和保守強硬派(フリーダムコーカス)が反対し否決に。
結局、3本目の案を通さないと政府機関閉鎖というギリギリの20日深夜に下院を通過し、21日未明に上院通過、バイデン大統領署名で成立に。
昼間の時点で金市場ではETFにヘッジ買いが入りその規模が約17トンとなった。実際にバイデン政権は政府職員に自宅待機指令を出していた。
実際にカネ切れになった場合には、週明けにも議会運営機能の障害を理由とした米国債の格付けの引き下げすら想定できた。米格付け会社ムーディーズが以前から最高格付けから1ノッチ格下げ方向のスタンスを敷いている(ネガティブ・ウォッチ)ことによる。その場合、ドル売り株安など金融市場の混乱が予見できたことから、ヘッジ買いが金ETFに入ったとみられる。
回避されたことで23日のNY金は反落した。午前中に発表された一連の米経済指標が強弱まちまちとなる中で、米政府機関閉鎖が回避されたことを好感し、対ユーロを中心にドルが上昇。先週のFOMCでFRBが来年の利下げペースを落とす意向を示したことを改めて消化する中で、米長期金利も上昇。 一時4.602%まで上昇し、約8カ月ぶりの高水準となる4.593%で終了した。
クリスマスや年末前で市場参加者が少ない中で、今週は米財務省による国債の大量入札(新規発行)も需給要因から金利の押し上げ圧力として働いている。
つられてドルも上昇。ユーロが弱いこともありドル指数(DXY)は先週末に続き2年ぶりの高水準となる108ポイントを超え、23日は終値も108ポイント台を維持して終了した。「SPDR(スパイダー)ゴールドシェア」は、売りが入り3.45トンの残高減となった。
NY金はロンドン午前、NY時間の早朝以降に売り先行の流れとなった。結局23日は、前日比16.90ドル安の2628.20ドルで終了。
つなぎ予算成立で来年3月14日まで政府の運営資金は確保されることになった。ただし、今回の合意に至る一連の流れは、ホワイトハウスおよび上下両院ともに共和党が掌握するいわゆるトリプルレッド状態にあっても、なお予算審議を巡る不透明要因が残ることを示した。
今回の金ETFへの買い急増は米政治リスク上昇の際の動きとしては注目に値する。