前々週は株式、為替市場大荒れの中で利益ねん出の売りが先行していた金市場だが、先週は 8月14日米消費者物価指数(CPI)や15日小売売上高など、注目度の高い経済データが相次いで発表され、いずれも米国経済の安定ぶりを示したことで、金融波乱を背景とした売りは後退した。
一連のデータはインフレ率は米連邦準備理事会(FRB)の目標である2%に向けて緩やかに低下し続けており、一方で個人消費は底堅く推移していることを示した。
ゴルディロックス(適温経済)と呼ばれる環境を示唆し、株式市場は再びリスクオンに転じ、大波乱相場はいまや単なるノイズに過ぎなかったということのようで、S&P500種とナスダック総合は先週末まで7営業日連騰となった。
一時は景気悪化への懸念から利下げ幅の拡大(0.25%⇒0.5%)まで前のめりに織り込みにかかった市場だが、通常ペースではあるものの9月の利下げはほぼ確定との受け止め方が広がっている。
その中で16日は対円はじめ主要通貨に対しドルが売られ、金市場では買い先行の流れが続き、NY早朝から終盤に向けて上値追いの流れが続いた。16日のドル指数(DXY)は102.463で終了したが、年初1月21日以来7カ月ぶりの安値水準となる。
16日NY時間の早朝に発表された7月の米住宅着工件数が、年率換算で前月比6.8%減の123万8000戸と2020年5月以来の低水準となると、ドルが売られる中でNY金は上げ足を速めた。8月2日に付けていたこれまでの最高値2522.50ドルを抜けるとそのまま2540ドルに接近するところまで上昇。
ただし、米ミシガン大学が発表した8月の米消費者信頼感指数(速報値)が67.8と市場予想(66.6)以上に上昇したことで、売り優勢に転じ再び2520ドル割れに押し返されることに。それでも押し目買い意欲は強く、終盤に向け再び上値追いに転じ通常取引は2537.80ドルで終了、前日比45.40ドル高で終値ベースでの最高値を更新した。
その後の時間外取引でも上値を伸ばし、一時2548.30ドルと午前中に付けていた高値を上抜けし過去最高値を更新した。最高値更新は年始から28回目となる。
パレスチナ武装組織ハマスの幹部が7月イランの首都テヘラン滞在中に暗殺されるという事件が発生。イランはイスラエルによるものとの判断から、イスラエル本土への報復攻撃を公言していた。前々週にはその攻撃が切迫しているとの情報が流れていたことから、金市場での最高値更新はいわゆる地政学的要因の高まりの中で起きるとの見方があった。
ところが、そのようないわばイベントが起きることなく、高値を更新した先週のNY金の動きは、米利下げ接近観測やこの秋以降予想される米国での政治的混乱の可能性、さらなる流動化の様相のウクライナ情勢(ロシア領内への直接攻撃)など不透明要因の多さに反応したマクロ型の上昇と言えるもの。
特定のイベントに反応する急騰急落型の値動きと異なることから、目先の上下動はあれ、上昇の持続性はあると思う。