リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

贋作はなぜ魅力的なのか(2)

2021年02月01日 16時06分26秒 | 音楽系
少し前の話ですが、生徒さんの一人が「新発見のリュート作品がありますが、ご存じですか。とてもいい曲ですよ」とおっしゃって楽譜を見せてくれました。

コンピュータでタブセットされた楽譜にはSautschekという作曲者名が書かれていました。聞いたことのない名前です。生徒さんがおっしゃるには、プラハ出身の人を中心とした一族の一人でバッハやヴァイスなどとも親交があったリュート奏者だそうです。

作品はシャコンヌやパッサカリアといったカッコいい名前がついている割には平凡な作品ばかりでしたが、一応エルンスト・ポールマンの「ラウテ、テオルベ、キタローネ1970年版」というリュート関連の過去の文献が一覧できる本を参照しましたが名前は出ていません。まぁここに出ていたら新発見ではないわけですね。

ネットで調べても原典となる写本や当時の印刷本情報は見つからず、さらに調べていくと作品も一族のストーリーもナントカというロシア系の名前の人の創作というかデッチアゲということがわかってきました。一族のストーリーとかリュートを弾く人が弾いてみたいようなタイトルの曲を並べて魅力的に見せてひっかかるようにしていたわけです。

ちなみにプロの人でひっかかった人はいないようで、録音もないようです。CDなんか出していたらちょっと恥ずかしい話ですよね。

ザウチェックの場合、曲のスタイルがあまり当時の曲に寄せてない、作品のクオリティそのものも低い、一族のストーリーだけで原典が示されていない、などでわかる人にはすぐわかるものでした。でももっとハイクオリティの曲で、原典となる写本を偽造してこれが原典でござい、なんてやったら結構ひっかかるのではないでしょうか。原典と言っても現代では現物を示す必要は全くなく、PDFを作ればいいのです。うむ、やってみる価値はある・・・かも。(笑)