リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

贋作はなぜ魅力的なのか(6)

2021年02月09日 14時49分40秒 | 日々のこと
テレビの「鑑定団」を見ていますと、美術の分野でも贋作は数多く出回っているようです。といいますかこちらの分野の方が音楽の贋作よりずっと多いみたいです。やはりカネになりますからねぇ。

昨日のニュースで東山魁夷や平山郁夫らの贋作が発見されたというのがありました。どっかの美術館の館長さんが「作家は精魂傾け全身全霊で作ったものです。その贋作が出るということは非常に悲しい」とおっしゃっていました。また別の美術館の方は「偽物を流通させるのは作品の価値をおとしめる行為だ」として非難しています。

「悲しい」のは館長さんなんでしょうが、コレクターや美術商の方たちも悲しいのだと思います。また作品の価値をおとしめるといいますがよく考えてみたら、どれだけ贋作が出ても作品自体の価値は変わるはずがないでしょう。変わるのは絵のお値段です。

この贋作事件、もう少し詳しく調べてみますと、画伯が制作した一枚ものの作品のリトグラフによる無許可複製を作り売ったということらしいです。リトグラフ複製を無許可で制作する場合は、正規の複製(正規の贋作?)が沢山あるわけだから発覚しにくいわけです。今回の事件、いわば贋作の贋作事件でしょう。

この作者公認、制作限定サイン入り(でしょう多分)のリトグラフ複製が何十万ときには何百万で取引されているといいますから驚きです。版画を何枚か制作するというのは、これらはすべて本物でしょうけど、一枚物の作品のリトグラフによる複製は、作家本人が作ってない以上は贋作ですよね。しかも何枚も制作が可能ですから、このいわば公認贋作商売は画商、制作者、そして作家本人にとってもおいしい話でしょう。

今回の贋作事件、そもそもこういったリトグラフによる複製に高値をつけるような仕組みがあったから起こった事件でしょう。こういう独占的な仕組みを構築できる美術界は実にうらやましい世界です。門外漢から見ると、複製する権利は誰にも開放すべきで独占すべきではないと思います。ちなみにその贋作の贋作、技術の高い職人によるものらしいので安いお値段なら欲しいですね。(笑)