リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

贋作はなぜ魅力的なのか(12)

2021年02月19日 10時45分15秒 | 音楽系
短和音のアーメン終止の例としては、1536年に出版されたハンス・ノイジードラーのリュート曲集にプレアンベルという曲があります。この曲のエンディングは短和音のアーメン終止です。タブで音が実際に示されていますので、それ以外の判断(ムジカ・フィクタ)の余地はありません。青で囲ってある和音から赤で囲った和音への進行です。


ドイツ式タブです。タブの最後の一番下の音は原本が間違っていますので、修正してあります。緑のラインがそうです。

五線譜に直しますと:


ほぼ同じ時代の曲、以前紹介しましたアルカデルトのマドリガル集第1巻第18曲目の Perche non date uoi donna crudele の終わりも同じく短和音のアーメン終止で曲を閉じます。



これら2曲は確かに短和音のアーメン終止で曲を閉じますが、そもそもこれらは後に現れる「短調」の曲ではなく、教会旋法の曲です。それに例に挙げたアルカデルトの曲は五線譜で書かれていますが、最後の和音をピカルディ三度により第3音を半音上げて長和音にしていた可能性もあります。ノイジードラーのタブ譜の場合はたまたま音を変化させなかった例であったのかも知れません。

いずれにせよ、「短調」が確立された時代の短調の曲においてアーメン終止で終える曲は知りませんし、バッハの作品でそのような曲は聴いたことがありません。一応念のためオルガン小曲集と平均律第1巻の短調の曲のエンディング(曲の終わりのカデンツ)をざっと聴いてみましたが、BWV565のフーガのエンディングと同じタイプのものはありません。