リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

無料誌

2007年08月04日 21時47分44秒 | ローカルネタ
桑名市一帯に無料雑誌Pが届けられるようになってからもう2年くらいになるでしょうか。最初は興味があるので子細に読んでみたんですが、なんかどっかの飲食店なんかの宣伝ばっかし目につきます。雑誌的な記事がそのうち増えるのではと期待はしていたんですが、ついこの間「宅配」されてた最新号を見てもやはり大して変わりません。

これって、無料だから仕方がないことなのかなぁ。どっかの会社が出している無料の求人雑誌もこんな感じだし。最新号のP誌では、記事と言えるものは全42ページ中たった2ページ、毎回ワンパターンの新生児写真アルバム?とか読者の声や催し物案内を入れても10ページは行きません。これだけ宣伝が多いと記事も宣伝も目立たなくなり、それこそ宣伝効果がなくなるのでは。

民法の番組でも例えば1時間番組中宣伝が50分あったとすると、その番組自体を見なくなるように思えるんですよね。となると宣伝効果自体は全くなくなります。無料をささえる宣伝もそればっかでは意味をなさなくなるわけです。

全国展開している、デジタル音楽系の無料誌Dは希有な例なんでしょうか、無料かつ宣伝が適量というか普通の雑誌とそんなに変わりません。記事の内容もなかなか中身の濃いものが多いです。同じジャンルを扱う有料誌もありますが、D誌はそれより宣伝がむしろ少ないくらいだし、記事に至っては「熱い」感じがするものが多いですね。

バーゼルにいたときは毎日無料新聞を駅前に取りにいきましたが、その新聞は普通の新聞で宣伝ばっかしというわけではありませんでした。D誌やバーゼルの無料紙がなりたっているということは桑名のP誌にもできる可能性はあるということですね。あんな宣伝ばっかしの無料誌って読者も編集者も面白くないと思うんです。無料誌が無用誌になってしまわないよう、もっと面白くなりましょうよ、P誌さん。

テオルボあれやこれや(5)

2007年08月03日 01時32分11秒 | 音楽系
リュートの最晩年期、すなわち18世紀第2、第3四半期頃は結構たくさんリュートを含んだ室内楽曲が作られました。ここでいうリュートを含んだ室内楽曲というのは、リュートを通奏低音楽器として扱うのではなく、メロディを弾く楽器として扱っている曲という意味です。通奏低音にリュートが参加するのは、17世紀ではごく一般的、18世紀のドイツの時代にあってもやや衰退しつつあったとはいうもののまだまだ現役でした。でも「メロディ」を弾く楽器としてのリュートはルネサンスやそれ以前のころ以来のことで、なんでそうなってしまったんでしょうね。

そういうジャンルは、コハウト、ファルケンハーゲン、ハーゲン、クロプフガンスなどヴァイスの次の世代の人が佳曲を残しています。例えばコハウトのリュート協奏曲ヘ長調を見てみますと、ヴァイオリン2、チェロ1とリュートという編成です。これに通奏低音楽器が入っていたかも知れません。リュートとしては、これだけお相手がいるともう音量的にギリギリというところです。ここで使われている楽器は恐らく指盤上の弦長が80cm近いニ短調調弦のドイツテオルボでしょう。この位の大型の楽器だと結構余裕が出てきます。私が今年の2月に行ったリサイタルでは、クロプフガンスの協奏曲を演奏しましたが、70cmの楽器ということもあり、バランス面ではとても苦労しました。

これらの曲の録音の場合大概はリュートがえらく音量的に持ち上げられていることが多いです。昔のジュリアン・ブリームのギターによるコハウトのヘ長調協奏曲の録音なんか、こんなにギターが聞こえるはずはないわな、って感じの録音でしたし、(でも逆にいうとこのくらい聞こえているといいなって願望でもありましたが・・・)最近のリュート奏者による録音でも妙にリュートが持ち上げらていまして、バランスとしてはいいんですが不自然といえば不自然です。こんな中でホプキンソン・スミスの録音(ハイドン、コハウト、ハーゲン、ファシュの作品を録音)は非常に自然なバランスで(つまりあまりリュートは大きな音ではない)かつリュートはよく聞こえているというある意味相反することが実現されている希有な録音です。ライブで聴いた場合に最も近い録音だと言えます。

テオルボあれやこれや(4)

2007年08月02日 11時51分35秒 | 音楽系
割とわかりやすいテオルボはドイツ・テオルボだと思います。これはヘッドの形状が他の地域・時代のテオルボとは少々異なり、何より調弦システムがバロック・リュートと同じのいわゆるニ短調調弦でした。でもこの時代のドイツでも「古い」イタリアンタイプの楽器も存在しましたし、ドイツ・テオルボのタイプの楽器がフランスで使われていたこともあったようです。

バッハがいくつかのカンタータや受難曲でリュートをオブリガート楽器として指定していますが、これは多分ニ短調調弦のドイツ・テオルボだった可能性が一番あるような感じですが、曲によってはそうとも言えないものもあります。バッハの声楽作品でリュートが指定されているものはそう多くはなく、198番、ヨハネ、マタイ、そして失われたマルコ受難曲の中のアリアとかアリオーゾなど何曲かに過ぎず、どういう調弦がふさわしかったかは結論を出すのが難しいです。

私の直感では、ニ短調調弦の楽器が全ての作品で想定されていたとは言えない感じがします。マタイ受難曲(初稿)の57曲目のアリア「来たれ、甘き十字架」のオブリガートは書法から言ってニ短調調弦の楽器である確率は高いですが、ヨハネ受難曲の19曲目のアリオーゾはニ短調調弦の楽器ではとても弾きにくいです。一音あげると結構弾きやすくなることから、「ハ短調調弦」が存在していたのかも知れないし、昔ながらの調弦のテオルボで演奏することを想定していたのかも知れませんが、決定的な結論は出すことができません。(なお、マタイ受難曲は現代では初稿で演奏されることは少なく、件の曲のオブリガートはヴィオラ・ダ・ガンバで演奏されることが圧倒的に多いです)

テオルボあれやこれや(3)

2007年08月01日 10時34分56秒 | 音楽系
バス弦と指盤上の弦長の比率が前回書いたようなものであれば全てテオルボなのかというとそうではなく、テオルボがテオルボたるには基本的には大型の楽器である必要があります。現代みたいに工業規格があるわけではないのでそれほど厳密には定義できないんですが、かなりボディは大きくて(あいまいな言い方ですえねぇ(笑))指盤上の弦長は75cm~90cm近くって感じですね。では73cmとか71cmだとテオルボとは言えないのかと言われるとちょっと困るんですけど。(ちなみに現代のクラシック・ギターのほとんどは65cmで、コントラ・バスの小さいので95cmあたりからです)

あと、テオルボを全体的に小さくして指盤上の弦長が65cmくらいまでの楽器のことをテオルボ型リュート(リウト・ア・ティオルバート)とかアーチ・リュートとか言うことがあります。大体の製作家はこの理解で楽器を制作しているみたいですが、演奏家によってはもっと大きな楽器をアーチ・リュートと呼ぶ人もいるようです。こうなってくると、アーチ・リュートとテオルボはどう違うんっ?てことになってきますねぇ。ナイジェル・ノースがその著書Continuo Playing on the lute, Archlute and Theorboでこれらの楽器を定義していますが、結構ややこしく微妙であったりします。テオルボの定義には形状の他、調弦の仕方もからんでくるんですが、そこまで踏み込むとややこしいのでやめときます。