院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

モダンジャズの歴史(5)

2011-04-26 06:58:01 | Weblog
 モダンジャズのオーケストラは最近流行らない。小さなバンド(コンボという)で演奏されることが多い。小さいから指揮者はいない。それでは、誰がペースメーカーになっているのかご存知だろうか?

 ドラムだと考える人が多いかもしれないが、実はベースがいつもペースメーカーの役割をしている。ドラムの方ベースに合わせているのである。個人的に言えば、ベースはエレキベースでなく、木で出来た大型のウッドベースがよい。

 エレキベースのボンボンボーンではなく、ウッドベースのゥトゥーン、ゥトゥーンという少し遅れた感じが、この音楽はモダンジャズだということを物語る。ふつうの軽音楽もそうだが、ベースはすべてピツィカートで弾かれる。これもクラシックとは違う特徴である。

 ベースは最低音を受け持つ。それも、今流れている音楽のコードのルート(基礎音)を弾いている。ベースがルートを引き続けてくれるおかげで、ピアノを初めとする他の楽器は、まったく新しいコード(和声)を奏でることができる。

 新しいコードとは、ルートより9度、11度、13度高い音を含んだコードである。これらのコードは、耳障りなのでクラシックでは使用されなかった。(クラシックは7度高い音まで。)

 だが、こういう高い成分を含んだコードが、モダンジャズのそれらしさを出していて、テンジョンコードと呼ばれる。緊張感が高いコードなので、そう呼ばれる。

 ベースがルートを引き続けてくれるおかげで、他の奏者は、こうした自由なコードを使用しうる。ただし、他のコード楽器、ピアノやギターなどはルートを弾かない。音が濁ってしまうからだ。

 ところで、和音とは複数の音を同時に出すことである。だから聴き苦しい不協和音も和音の一種である。一方、和声というのは、和音の中で心地よいものだけを指す。

 ルネッサンスまでは、ルートと4度、またはルートと5度しか心地よい和声ではないとされた。すなわち、ドとファ、ドとソしか和声とは認められていなかった。

 それがベートーベン、モーツァルトの時代になって、ドミソ、ドファラ、シレソが和声として認められるようになった。つまり3度が和声の仲間入りをした。比較的最近のことである。

 さらに軽音楽は、7度を入れても和声として認めた。ドミソシ♭が和声となった。続いてモダンジャズは9度11度13度を入れても和声と見なすようになった。これがテンジョンコードの興りであり、その結果、音楽の緊張感を高めることになった。ドをベースが弾いて、ピアノがあとのミソシ♭レを弾くと、モダンジャズらしいサウンドとなる。

 モダンジャズの緊張感あふれるテンジョンコードに慣れてしまうと、クラシックや軽音楽の、ただ調和しているだけの和声では物足りなくなってしまう。モダンジャズを一番、特徴付ける音、それがテンジョンなのである。