院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

漫画「ヘルプマン」を読んで

2011-04-29 07:24:12 | Weblog
 妹が「面白いから読んでみろ」と漫画「ヘルプマン」(講談社)を送ってきた。面白くて面白くて12巻まで出ている分を一気に読んでしまった。

 老人介護という重い問題を、エンターテインメントにしてしまうなんて、漫画家のすごい技量を感じた。

 物語は介護を志す2人の青年を中心に運ばれている。介護現場の現実も周到に調査されている。漫画だから幾分の誇張はあっても、おおむね正しい。私の知らない部分も描いてあった。

 私は介護保険の認定委員をやっている。だから市役所の当該課の人間と交流がある。「ヘルプマン」は面白いよ、と担当の役人に言ったら、すでに介護保険担当課の職員全員が読んでいて、確かに面白いという反応が返ってきた。少しホッとした。

 介護保険の個々の老人に関する臨床データは、科学的でないと前から思っていたが、私自身、名古屋市役所で役人を7年間やった経験からは、行政は科学でやるものではないと身に沁みていた。役所は医者のお墨付きがほしいだけだ、ということも分かっているから、安い謝礼でも認定委員を引き受けた。

 話は「ヘルプマン」に戻るが、認知症の描写が絵もストーリーも卓抜である。認知症の苦しい内面が描かれているけれども、認知症にもいろいろあって、あまり苦しくない認知症のほうがむしろ多い。そちらのほうも描いてほしい。

 認知症という病名を、日本精神神経学会は学術病名として認めていない。でも、dementia を痴呆と翻訳すのはどうか?痴呆とは、あんまりではないか?痴呆症でもきつい。

 日本精神神経学会は、「症」は障害に付けるべき、すなわち「恐怖症」、「失調症」のように命名すべきであり、認知という機能に「症」を付けるのはおかしいという。よって「認知症」は行政病名であり、学術病名とは認めないというのだ。

 行政が学会に何の相談もなく病名を変更したことに対する不快感は分かる。だったら、そのように不快感を表明すればよい。「機能に症は付けるべきでない」なぞと屁理屈をこねると、墓穴を掘ることになる。

 それなら、学会が認めている「神経症」はどうか?「ダウン症」はどうか?いずれも「障害」に「症」を付けたものではない。

 schizophrenia を「精神分裂病」と訳すのをやめて「統合失調症」と響きを柔らかくしたのは、当の日本精神神経学会ではないか。病者に対してそれだけの思いやりがあるなら、認知症でもよいではないか?