バリから沖縄に戻る日に、先生の家に挨拶に行くと、しばし話しの後、胸のポケットから小さな袋にはいったものを私の前に置いた。
「君へのプレゼントなんだ」と彼は、笑って言った。
「これは、トゥアレンのケペンのネックレスだ。昔のバリには、トゥアレンやアルジュナがデザインされたケペンがバリで創られていた。それは今ではお守りとして使われている。トゥアレンは神であり、ワヤンにおける重要な話し手だ。君はダランだし、大学の先生だから、このケペンが必要なんだ。ぼくはこれを、クルンクンに行って注文してきたんだよ。」
私はこうしたケペンがあることを、大英博物館が出版した書籍から知識としては知っていたが、実際のケペンを見たことはなかった。
「もちろん、これは当時のケペンではなく、それを忠実に再現したものだ。しかし重要なことは、金、銀、銅、錫、鉄と五つの金属が混ぜ合わされて作られていることなんだ。ガムランも同様にかつては五つの金属を混ぜたといわれている。もちろん、銅と錫以外は微量だから、音には関わりがないが、バリにとって重要な5という数が大事なんだ。」
そんな話を聞いて、ぼくはとても嬉しかった。ぼくはこれからトゥアレンを身につけて、トゥアレンが私の「話」を守ってくれるのだと思うと。ところで、アルジュナのケペンを首にかけていると、とても女性にもてるそうである。