去年1、2を争うレベルでヘビロテしていたアルバムがじゃがたら(今作では「暗黒大陸じゃがたら」名義)の「南蛮渡来」でした
正直2014年は近年でも特に精神状態がよろしくない事になってたんですが、その時に聴いてて気持ち助けられたのが今作「南蛮渡来」でした
ありあまるフラストレーション、「なんだか気に食わない」という強い憤り、音から詞から伝わって来る“自由であること”への衝動・・・
そのすべてが当時の、そして今の自分にも“似合って”いてなんだか他人事とは思えない類のアルバムだなあ、と
凄くサウンドにも言葉にも頷ける感覚が強かったのが今作「南蛮渡来」であり
常に違和感や疎外感を受けている人間には深く作用してくれる類のアルバムであると思う
江戸アケミさんのボーカルも音の間合いの取り方もすごく格好良くて憧れるレベルなんですが
何よりも個人的に素敵だと思ったのはどこを切っても「人間らしい」ということ。
人が生きてて普通に感じるような憤りだったり、
優等生では済まない醜い感情だったり、
他人(ひと)を許せない気持ち、
そして画一的で先入観だらけの世の中に対する「気にくわねえなあ」って想いや反骨精神などなど正に自分の好みどストレートな音楽性なんですね
その中で浮かんでいる哀愁だったり、クソ食らえって必死な感情だったり、自分で考えて自分で動く“自主性”を促す言葉だったり
持ち前の批評性、反骨精神の他にも多種多様な情感が受け取れるのがまた今作の奥深いポイントであります
そして、そういうパンキッシュな方向性や精神性を宿しているのにも関わらず
音楽、ことアレンジに関してはめちゃめちゃお洒落で(!)、ぶっちゃけ33年前のアルバムとは思えないくらい洗練されています。
発表は1982年なんですが正直古さとか色褪せてる感じ、「懐かしい」といったテイストが全く感じ取れないので
本当に10数年単位で時代を先取りしまくってたバンドなんだなあ・・・という事実をまざまざと感じさせてくれます
「BABY」のキラキラしたギターリフなんか「1982年の音楽」感が全くないどころか今出しても通用するんじゃ?って感じだし
今のオルタナティブ・ロックのファンに普通に受け入れられて熱狂的にハマらせる潜在能力を深々と感じさせるアルバムでもあります
何より、パンキッシュな精神性でありながら演奏が抜群に上手く、お洒落であるという唯一無二の音楽性が痺れるくらいに格好良い。
自分は相反する要素が同居している類の表現が大好きなのでその意味でも自分向けですし、
このアルバムと似た音楽性でやってるバンドなんて正直ないんじゃ?と思えるくらいに独自性がめちゃくちゃ高い。
件の格言よろしくじゃがたらは本当に“枠”にハマらずハメさせず踊りたいように踊っていたバンドなんだな、
ってそういう事実が今作を聴いただけで深く確信出来る最高のアルバムになってるかと思います。
繰り返しになりますが、
少なくとも自分は去年陰鬱になってた精神状態を何度も今作に掬いあげてもらってました。
それくらい人に作用するパワー、意志、そしてエネルギーがあるアルバムですね。
「南蛮渡来」、(自分にとって)一生聴き続けられる名盤です。
1.でも・デモ・DEMO
初っ端から、
あんた気にくわない
ってボーカルで始まるあたりが最高ですね(笑
そしてトランペットやサックスの音色がすこぶる気持ち良く、
コーラスワークや小気味良いバンドアンサンブルも相俟って今作でも特にお洒落さ満点
心地良くダンサブルでもある音像に合わせてひたすらパンキッシュな歌詞が矢継ぎ早に繰り出されるという
独自性たっぷりの素敵なナンバーに仕上がっています。個人的に大好きなのが以下の歌詞、
みんないい人、あんたいい人
いつもいい人、どうでもいい人
今宵限りでお別れしましょう
あんた大好き、彼女大好き
自分大好き、メチャクチャ大好き
今宵限りでお別れしましょう
せこく生きてちょうだい
この歌詞は去年、特に上半期繰り返し聴いて相当助けられてました
あまりにも自分が大好きで、他人を自分の色に染めようと画策するようなインチキ野郎や
面構えだけは良い“風”をよそおって八方美人に徹する心そこにあらずの輩に心底腹が立ってたので
そのストレスの払拭という意味合いでも
「お前とは決別するよ。」という選択の後押しという意味合いでも
本当にこの曲に助けられたな、心救われたなあ・・・と個人的に感謝している一曲ですね
「暗いね」ってネガティブな言葉なのに繰り返し歌う事でリズミカルにお洒落に響かす手法だったり、
「お前はお前の道をお前で歩け」と示唆するような歌詞だったり、
ただ反骨精神を感じさせるだけではない、
多角的に聴ける趣がある曲かと
初期の代表曲でありじゃがたらの精神性が特に色濃く反映されてる名曲だと思います。「あんた気にくわない」!
2.季節のおわり
くれてやれ
毒入りワインを
自身が感じてた(であろう)“違和感”をストレートに吐き出している一曲
ザラザラしたギターの攻撃的な音色がスロウテンポの曲ながらも刺激的で物凄く格好良い。
ちょっと不穏な雰囲気もまた余計にゾクゾクする感じで短いながらも強い印象を聴き手に与える楽曲ですね。
「従うな」「大人しくしているな」というメッセージにも思える歌詞の数々も素敵ですし、
これこそロックバンドが歌うべきテーマだよなあ、としみじみ感じてます。
思想を統一しようとする輩には気を付けろ!
3.BABY
いやあ、これもう大好きです(笑)。
曲自体はサビとかABメロの概念が一切なくただずっと「ベイビー」って繰り返し歌ってるだけです
なのにも関わらず飽きない、どころか踊り続けられてしまうその圧倒的なセンスが凄い!!
前述の通りキラキラした艶っぽいギターリフが本当に小洒落ていて素敵なんですが
そんな中でさえ「クソまみれ」「血を流せ」など、
お洒落なアレンジに似合わない歌詞が綴られているギャップも流石です。
おおよそ30年前の音楽とは思えないくらい洗練されてるアレンジに感動するんですが、
徐々に熱量を帯びていく「ベイビー」の歌声にも聴いてると熱く揺さぶられてテンションが上がりますね
ワンフレーズの繰り返しだけなのにヘビロテにも耐えうる骨格の素晴らしさもまた注目の一作。
外で聴いてると思わず踊りだしたくなっちゃう危険なナンバーでもあります(笑)名曲。
BABY,ただそれだけのことさ
この歌詞めっちゃ好き。
4.タンゴ
前の曲とは対照的に渋くて哀愁を帯びたアレンジと雰囲気が特徴的な一曲
ひんやりした音像とダンディな江戸アケミさんのボーカルがとみに格好良いですね
歌詞の内容は、ドラッギーで孤独感満載の詰んでる感じなんですが
その終末感、どうしようもない感覚も好きだったりします
尚、この曲だけ唯一ノスタルジックっちゅうかレトロな雰囲気があるかなあ、って思います
それでも普通に聴けちゃうあたりがまた高い音楽センスを表しているようでこれまた大好きな曲ですね。
情景が特に浮かびやすい楽曲でもある。
5.アジテーション
カラッと乾いた感触のサウンドのアプローチがまず凄い
当時は歌謡曲全盛だろうにここまでクールに素朴さを貫き通したアレンジはむしろ現代的とも形容出来そう
けだるげなボーカルや伸びやかなメロディラインも気持ち良く力まずにスッと聴ける心地良い一曲に仕上がっています。
だけど、そんなアレンジなのにも関わらずこの歌詞、
もうこれ以上お前に
話す事は何ひとつ無い
このフレーズにもまたも気持ち助けられました
割と「分かり合う」「認め合う」って主張が多いこの国に於いて(勿論それも全然素敵だし、そう思う事もあります)
ここまでストレートに嫌悪感、拒否感を色濃く出している歌詞と歌も早々ないですよね
はっきり言って、「この人とは分かり合えない」
「よしんば分かり合えるとしても、そもそも分かり合いたいとも思わない」って人は確実にいます
だから、自分にとってはこういう事をしっかりと歌ってくれるのはそれだけで“ありがたい”事でした
本当はこういう気持ちで生きている日だって確実に存在するんだ。っていう話ですね。
個人的にお守りのようにいつも心で鳴らしてるワンフレーズです。
6.ヴァギナ・FUCK
パンキッシュなバンドがこのようなタイトルを付けてると、
いかにも疾走感たっぷりのいかれた感じのパンクナンバーを想像させますが
むしろしっとりした感じのマイナー調ファンク・ロックになってるのが面白いですね
だから普通に聴けます。それが凄いですね、このタイトル以上に。
彼氏をアクメに誘い込む
とっておきのフェラチオを
官能は“正義”です。
7.FADE OUT
多分今作で最もダウナーでアンニュイな一曲
聴き手に粘りつくようなボーカリゼイションが超スロウテンポ、かつ約7分の長尺で襲い掛かります
基本的に今作の収録楽曲は全部「大好き」と断言出来ますが、この曲が一番断言出来るまでに時間が掛りました
それが今や、段々とフラストレーションを放出させていくようなアケミさんのボーカルの変遷にグッと来てたり、
自棄的な作中観に夢中になったりもしているんだから分からないものですね。
取り敢えず異様に気分が悪くなった時に一番聴きたくなるのがこの曲。
フェイド、フェイドアウト!カッコよい。
8.クニナマシェ
これはもう一言で、
「大名曲」でしょう。
「やらせろ」なんて歌詞をお洒落に響かすセンス(!)といい
カオティック過ぎるのに何故か感動的な作中観やムードといい、
リズム感抜群な故、約10分の大作でも普通にヘビロテしたくなる演奏センスだったり
とにかく何もかもが凄まじく、また今作でもとみに“圧倒的なセンス”を色濃く感じられる楽曲でもあります
3つ~4つのボーカルラインが同時に鳴っているようなこの曲以外では聴いた事のない未知なる感覚、
真の意味でオルタナティブ・ロックのど真ん中を往く素敵過ぎる音像に感嘆の声を聴く度に漏らしてしまう、そんな大名曲です
ポジティブな言葉、ネガティブな言葉、破廉恥な言葉、泣きそうになる言葉が同列に並んでこの曲「ならでは」の作中観を堂々と生み出しています
それはまさに“人間そのもの”のようで、この曲一曲に人そのものが集約されてるからこそ
聴く度に感動してテンションが上がってしまうのかもしれません
とにかくこんな曲はこの曲以外で聴いた事ないです。
少なくとも自分は、ね。
雨よ降れ、地よ踊れ
死に行く者の革命だ
風よ吹け、足を鳴らせ
ゴキブリ共のお通りだ
物凄いレベルの光と、物凄いレベルの憎しみが同時に鳴っているような神々しささえ感じさせる一曲
その睨みつけるような憤り、反骨精神、ちゃんと自分の目で見て耳で聴いて考えて行動しろよ、というメッセージ性
高純度の要素が混ざり合って一つのでっかい芯として鳴り響いている様は正にじゃがたらの“魂”そのものです
自分の踊りたいように踊って、自分が考えたいように考える。
その何者にも行く手を遮らせない、左右させない“貫きっぷり”こそじゃがたらの素晴らしさの大きな一要因なんじゃないか・・・って
この曲を聴いていると深く深く思いますね。美しい音楽だと、心から思います。
9.元祖家族百景
ここからはCD盤のボーナス・トラックになります
自分が聴いてるのはCDの再発盤でオリジナルのアナログ盤だと全8曲なんですね
そして9曲目に入っているこの曲は、
ズッポリ挿れてる最中に
報道陣がやって来た
と奇天烈でセンセーショナルな作中観が光る一曲に仕上がってます
歌詞の「ちゃんとした奴なんだけどな」っていうのはスキャンダラスな一面ばっかりに目が向いて
その別の一面は無視されている、なかった事にされる件への憤りや物申す気持ちもあったりするのかな・・・とも思ったり
まあ“見えている面だけがすべてじゃない”という話ですね。
10.ウォークマンのテーマ
この曲もかなり好きです
まず伸びやかなメロディとクールなボーカルがお気に入りなのと、
「途中で辞めちゃ嫌だよ」って歌詞が結果的に今作のラストに相応しいように思えるからです
前曲の「元祖家族百景」といいボーナス・トラックとはいえかなりの良曲が入ってるなあ~と素直に感じてますが
何よりも好きなのはただ単純に「口ずさみやすい」って事かもしれません(笑
正直よく「ヘ~イ、ミスターウォークメ~ン」って口ずさんでる自分がいます。
短いけど印象に残る一曲。
反骨精神や憤り、違和感を歌うロック~となると
必然的に超ゴリゴリで荒々しくて良い意味でぶっきらぼうな感じになるのが往々にしてありますけど(それも好きだけど)、
じゃがたらは、このアルバムはそんな流れに反してお洒落で格好良くて、クールなアレンジで以て、真っ当なパンクを奏でているという
誰もやってない事を「これが俺の踊り方だ」と真っ直ぐに貫いている“強烈なオリジナリティ”を鳴らしています
だからこそ個人的に崇拝、憧れを捧げるのと同時に
件の「やっぱ自分の踊り方で踊ればいいんだよ」という発言を有言実行していると思える音楽性にも深く感銘を受けました
手前の踊り方で踊れ、手前の目で耳で見て聴いてその上で考えろ、という本当は“当たり前”なのに
いつの間にか軽視されている(と感じる)“当たり前”をちゃんと歌ってくれている
そんな「誠実さ」に最も自分は惹かれているのかな、と
今回感想を書いてみて思いましたね。
この音楽は、アルバムは、33年経っても普通に今のリスナーに届くくらいちゃんとした意図がありエネルギーに満ちている傑作
そして、この先以降もずっと色褪せない強烈な「ならでは」が光っている紛う事なき名盤だと。そう感じてます。
カッコヨイ!