ヌマンタの書斎

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「小説吉田学校」 戸川猪佐武

2007-12-14 09:30:44 | 
いささか不謹慎な言い様だが、はたして政治学は学問足りうるのか?

法学部出身の方に怒られそうだが、私はけっこう疑問に思っている。アリストテレス(私は読んでない)に始まり、ホッブス、丸山真男などの政治学の大家を、なんと心得ると叱責を受けそうだ。学問に決まっているだろうと断言する意見の方が多数派なのは私にも分る。

でもね、私は知識は実用に供してこそ価値があると考えている。政治学を学んで、日本の政治が分るだろうか。政治学を修めて政治家になれるだろうか。

もちろん、学問は実用のためでなく、教養のためであってもいい。実用に供されないから価値がないとは、さすがに言わない。それでも敢えて言いたい。政治学は日本の政治に役立っているのか、と。

経済学部出の私だが、一応大学の一般教養で政治学や現代政治論などは履修している。丁度、中曽根内閣の頃で、臨調などの作業部会の構成員の方が講師を勤めていたので、けっこう面白い講義が聴けたのは覚えている。でも、それはあくまで雑談であって、分厚いテキストを読んで政治が分ったとは到底思えなかった。

外国の場合はいざ知らず、日本では政治は主義主張で動いているわけではない。政治家という仕事を持つ人間たちの集団の力関係で動いている。イデオロギーで動くのでもなく、地元への利権分配だけで動いているわけでもない・・・らしい。

いくら政治学を学んでも、日本の政治の動きは分らない。政治家がどのように動き、なにを考え、なにを求めているかは、その政治家の実際の動きから憶測するしかない。

だからこそ、表題の本は面白かった。政治学が解明できない現実の政治の動きを、それなりにもっともらしく説明してみせた。新聞記事が上っ面しか書かない政治の動きを、生々しく描いてみせた。

なぜ民主党の小沢一郎が反米志向なのか。自民党内部のなかに共鳴したり、反発したりする動きが出るのか。その源流は田中角栄にあり、そのライバル・福田等の保守本流の動きを知ると、より理解が深まると思う。

表題の本は、主に吉田内閣から佐藤、中曽根ぐらいまでしか捉えていないが、それでも凡百の政治学者のご高説をはるかに超えて、日本の政治の動きを描いている。もちろん、書かれていないことも多々あることは私でも分る。それでも新聞などに書かれた上っ面だけの記事が、この本を読んで初めて生き生きとした動きを伝えるようになったのは事実だ。

書いてあることが事実か否かは別問題だが、日本の政治の動きをもう少し分りたいと思うのなら、その入門書としては最適の一冊だと思います。
コメント (8)
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