どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

すずをならすのはだれ

2015年02月07日 | 安房直子

 

    安房直子・作 葉 祥明・絵/PHP研究所/1978年初版 1978年初出


 単行本で字が大きく、自分にとってはぴったり。
 小学校1~3年向きとありますが・・・大人のほうが楽しめると思います。

 安房さんの特徴の一つは季節感。2月に読みたい童話。

 「北風は、高い空で、ぎんのトランペットをふきならし、森の木が、ひくい声でごうごうと 歌っていました」とはじまります。

 森は一面の銀世界。そこにポツンとたっている一軒の家。

 買い物に行くウサギ、おなかをすかせたタヌキ、みちにまよったネズミ、のどのかわいたシカ、かなしくてたまらないキツネ、足にけがをしたイノシシが次々と、この家の鈴をならします。

 家のなかからは、歌声がして、動物がふえるにしたがって、歌声はだんだんおおきくなります。

 何の歌?

 雪のしたにねむっている花のたねや草のたねをはげます歌です。たねたちはふうと大きないきをついて、元気をとりもどし、雪のとける日をしずかにまちます。

 やがて、とびらのすずをならしたのは春一番の春風。

 福寿草が咲き、スイトピー、れんげ、すみれが咲き、すずらんが森いっぱいに咲きます。

 この家には春の精が住んでいるのでした。
 
 幻想的で、森が花でおおわれた風景が目に浮かぶようです。

 しかし、春の命のめぶきもきびしい冬があればこそです。


すずめのおくりもの

2015年01月05日 | 安房直子


     すずめのおくりもの/安房直子・作 菊池恭子・絵/講談社/1993年初版 1982年初出
 

 挿絵がついていますが、そうでなくてもいろいろ想像すると楽しい。

 月に一度のとうふやさんのお休みの日、すずめたちがやってきて、次々に口上をのべます。

 電線の上に並ぶすずめをよくみかけますが、横一列にならんで順番に口上をのべるあたりは、舞台を思わせます。

 すずめのおねがいというのは、すずめ小学校の入学祝いに、あぶらげをごちそうするというもの。

 おひとよしのとうふやさんは、朝早くから起こされてしまったのに、この頼みをひきうけます。

 すずめたちが差し出したのは、湯飲み茶わん一杯ほどの大豆。まず、豆腐を作る工程がていねいに展開されます。

 豆腐を作るためには、豆をしばらく水につけとかなくちゃと、とうふやさんがいいますが、せっかちで、まちきれないすずめたちが、一時間おきにやってきて、「まめはやわらかくなりましたか?」「そろそろとうふができますか」と聞くところでは、おもわず笑えます。

 できた豆腐で、あぶらげをつくることになりますが、すずめが期待に胸をふくらませながら見つめる様子にワクワク感があります。


ふしぎな文房具屋

2014年12月18日 | 安房直子

     ふしぎな文房具屋/安房直子コレクション2 見知らぬ町 ふしぎな村/偕成社/2004年初版 1982年初出


 であいは突然という感じでしたが、読めば読むほどメルヒンの世界をあじわさせてくれるのが、安房さんの作品です。

 小学校の教科書にも採用され、小学校時代に安房作品を読まれたかたも多いようですが、私は残念ながら安房さんの作品に触れることはありませんでした。

 これまで4年弱、いろいろな人のお話を聞いていますが、諸先輩が安房作品を語っていないのが不思議なくらいです。語るには長すぎることもありそうですが、覚えたいと思うと、すんなりはいってくるのも特徴のような気がしています・・・。

 朗読されている作品も多いようですが、あるブログの「大人のためのお話し会」のプログラムに「花豆の煮えるまで」をみて、聞いてみたいと思いました。
 でもこの話も長いですね・・・。

 安房作品に惹かれて、勉強会で「ひぐれのお客」を話したことがあります。比較的短いものですが、それでも20分はこえました。それにしても季節感が重要で、この話も11月か12月初めの頃がふさわしく語る時期に制約があるのが残念です。
 

 「ふしぎな文房具屋」も、不思議な世界へいざなってくれます。

 客が三人も入ればいっぱいになりそうな店には、なんとも不思議な文房具がおいてあります。
 ほんものの花のにおいがする鉛筆、虹から色をもらった絵具、小鳥の声が聞こえる筆箱、なんでも消える消しゴム等々。
 冒頭に、これだけのものがそろっていると、すぐに安房さんの世界へ。
 
 一人の女の子が店にやってきますが、やってきたのは冬のひぐれどき。女の子はみぞれにぬれ、寒そうで、とても悲しそうです。春や夏ではなく、冬がぴったりです。女の子はなんでも消える消しゴムをくださいといいます。大事な猫を亡くし、心の悲しみを消そうとしたのです。
 おじいさんが画用紙に猫をえがくと、それは女の子がかっていた大事な猫とそっくりです。しかし、その猫が病気で死ぬ前の猫だったので、女の子はすぐに消してとさけびます。 

 おじいさんが黄色いけしゴムで絵のうえをこすると、画用紙には、一面の水仙の花柄がひろがります。女の子が水仙をみつめていると、画用紙から猫の声が聞こえてきます。
 女の子が、花畑に入りたいというと、いつの間にか花畑へ。そこには健康な猫がいます。しばしの楽しみ。しかし、猫は女の子をふりきって空にのぼってしまいます。

 文房具屋さんのおじさんが、これはおまけといってわたしたのが、涙も吸い取ってくれる特性の吸い取り紙。こんな吸い取り紙がほしいですね。

 ここにでてくるおじいさん、丸いメガネをかけ、なんでも見通している仙人みたいなおじいさんで、アニメにしたらどんなイメージになるか想像してみました。            


遠い野ばらの村ほか

2014年09月20日 | 安房直子

      遠い野ばらの村/作・安房直子 絵・味戸ケイコ/偕成社文庫


 安房直子さんの作品が好きな方には申し訳ないのですが、書店で購入しようと思った本がなくて、たまたま購入したのが安房直子さんの「遠い野ばらの村」。
 はじめてふれる安房直子さんの作品ですが、9編の童話がありました。

 どの作品もやさしく、ほっこりした気分になりました。
 どの作品も動物と人間の交流が描かれ、色と食が巧みに取り入れられています。

  たぬき(遠い野ばらの村)
  うさぎ(初雪のふる日)
  猫(ひぐれのお客、ふしぎなシャベル、猫の結婚式)
  ひらめ(海の館のひらめ)
  カエル(秘密の発電所)
  はち(野の果ての国)

<ひぐれのお客>
 黒い猫が、黒いマントに赤い裏をつけたいと裏通りの手芸屋にやってきます。
 裏地につける赤色について猫と店主の論議が続きます。
 ピンクがかった赤の裏地は小さな花のやさしくあまいかおりです。
 畑のスイトピーが、かぜにゆれ、口々に、ねえ、ねえとよびかけてくる感じは、いつでもだれかにささやきかけられているみたいで落着きません。
 紫がかった赤は、お酒を飲まされてくらくらします。
 もうひとつの赤は、布地から、かすかに薪のもえる音がして、木のにおい。さわってみると、ほんのりとあったかく、炎がすこしづつひろがります。

 猫がほしかったのは、薪ストーブが、ぱちぱち音をたて、心がやすまるあったかさの火の色でした。

 色がにおいをもち、音をだすのがつたわってくる物語。

 少しこましゃくれた猫ですが、猫が好きな方には、ふんふんうなずけそうです。

<ふしぎな光景>
 ・どこまでも続く石けりの輪(初雪のふる日)。
 ・公園の砂場の砂をシャベルですくってみると、穴は海につながっています(ふしぎなシャベル)
 ・レストランの下働きをしていた若者に、ひらめがひそかにさまざまな料理のつくりかたを教え、お嫁さんになる娘をさがし、古い小さな店をもたせる手助けをする(海の館のひらめ)

「現実と異世界の見えない仕切りを またいでしまった主人公たちの物語」というコピーが、作品の内容をよくあらわしていますが、50歳でなくなられたとあって残念です。