どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ありがたいこってす!

2012年10月30日 | 私家版

 「ありがたいこってす!」(マーゴット・ツェマック・作 渡辺茂男・訳 童話館出版 1994年初版)という絵本。楽しい話で、語ってみたいと思い、すこし整理してみました。あくまでボランティア用としてのものです。

 

 むかし ある小さな村に、貧しい不幸な男が、母親と おかみさんと 6人の子どもたちといっしょに、一部屋しかない小さな家に住んでいた。

 家のなかが あんまり 狭いので、男と おかみさんは 言い争いばかり していた。子どもたちは こどもたちで、がたがた うるさくて 喧嘩ばかり。

 冬になると、昼間は寒いし 夜は長いし、暮らしは ますます みじめになった。

 小さな家は、わめき声と 喧嘩騒ぎで われんばかりだ。 

 ある日、この貧しい不幸な男は、とうとう 我慢できなくなって、なにかいい知恵は ないものかと ラビ(ユダヤの法律博士、先生)のところに いった。

 「ラビさま」と 男は わめいた。「いろんなことが うまく いかなくなって、ひどくなるばかりでがす。わしらあ ひどく 貧しいもんで、おふくろと。かみさんと がきが6人と この おれが、みんないっしょに ちっぽけな小屋に すんでいるんでがす。その狭くて うるせえことときたら! ラビさま たすけてくだせえ。おっしゃるとおりに いたしますだ」

 ラビは ひげをしごいて かんがえて、しばらくたって こう いった.

 「おまえは 動物を飼っているかね。にわとりの1羽か 2羽でも?」

 「へえ」と 男はいった。「おんどりが一羽、それから ガチョウが一羽 おりますんで」

 「それは けっこう」と ラビは いった。「では 家に帰り、おんどりと ガチョウを なかにいれて、いっしょに 暮らしなされ」

 「おっしゃるとおりに いたしますだ」と 男はいったものの すこしばかり 驚いた。

 貧しい不幸な男は、いそいで 家に帰り、とり小屋から おんどりと ガチョウを連れてきて、自分の家の中に入れた。 

 小さな家の暮らしは、まえより ひどくなって、これまでの 喧嘩さわぎと わめき声に くわえて、ぐわぁぐわぁ、こけこっこう。スープのなかには とりの はね。

 一週間たつと、貧しい不幸な男は もう 一刻も がまんならんと、また ラビに 知恵をかりにいった。

 「ラビさま」と 男は わめいた。「ひでえことに なりましたでがす。喧嘩騒ぎに わめき声、ぐわぁぐわぁ、こけこっこう。スープの中にゃあ とりのはね。こんな ひでえことは ねえでがす。ラビさま たすけてくだせえ。おねがいだ」

 ラビは 男のいうことをきいて、かんがえて、しばらくたって いった.

 「もしや おまえは、やぎかっておらんかね?」

 「へい おりますとも。たしかに おいぼれやぎが 一匹。やくたたずでがすよ」

 「でかした」と ラビはいった。「では 家に帰り、おいぼれヤギを なかにいれて いっしょに暮らしなされ」

 「とんでもおない! ラビさま じょうだんは やめてくれ!」と 男はわめいた。

 「いやいや、おまえは 私のいうとおりに するがいい」と、ラビはいった。

 貧しい不幸な男は、あたまをたれて とぼとぼと 家にかえり、おいぼれヤギを なかにいれた。

 小さな家の暮らしは、もっともっと ひどくなって、喧嘩さわぎに ぐわぁぐわぁ、こけこっこう、ヤギが暴れて、つので おしたり つついたり。

 三日たつと、貧しい不幸な男は もう 一刻も がまんならんと、また ラビに 知恵をかりにいった。

 「ラビさま、たすけてくだせえ!」と 男は 悲鳴を上げた。

 「こんどは、ヤギが暴れまわって まるで 悪い夢を みているようでがす」

 ラビは 男のいうことをきいて、かんがえて、しばらくたって いった.

 「きくのもむだだとおもうがの。もしや おまえは、牛を飼っておらんかね?若い牛でも おいぼれ牛でもかまわんよ」

 「へえ たしかに 牛が 一頭 おりますでがす」と 哀れな男は おそるおそる いった。

 「では 家に帰り」と ラビはいった。「牛を なかに いれなされ」

 「とんでもおない、そんな むちゃな!」と 男はわめいた。

 「すぐ そうするのじゃ」と、ラビはいった。

 貧しい不幸な男は、鉛を飲んだような気持になって、よろよろと 家に帰り、牛をなかにいれた。ラビは 正気のさたとは思えねえな?と 男は思った。

 小さな家の暮らしは、まえより くらべものにならないほど ひどくなって、喧嘩さわぎは ひきもきらず、おんどりとガチョウは つつきあい、ヤギは暴れる、牛はなんでも ふんづける。

 一日たつと、あわれな男は こんな不幸が あっていいものか、とおもった。とうとう 堪忍袋の緒が切れて、ラビに 助けてくれと たのみにいった。

 「ラビさま」と 男はさけんだ。「たすけてくれ すくってくれ。この世の終わりだ! 牛は なんでも ふんづける。もう 息をする すきまもねえ。地獄に おちたようでがんす!」

 ラビは 男のいうことをきいて かんがえて、しばらくたって、こう いった。

 「家にお帰り あわれな男よ。そして、動物たちを、外に出しなされ」

 「だしますとも だしますとも たったいま」と 男はいった。

 貧しい不幸な男は、いそいで 家に帰り、牛と ヤギと ガチョウと おんどりを 家の外に 追い出した。

  その夜、あわれな男と 家族のものは、ひとり残らず ぐっすりと 休むことができた。こけこっこうもなければ、ぐわぁぐわぁもなし。すきまも タップリあって 息もらくらく つけた。

 次の日、男は ラビのところへ はしっていった。

  「ラビさま」と 男は 大きな声で いった。

 「おまえさまは おれのくらしを らくにしてくださった。家のなかには、家族のものが いるだけで、しずかで ゆったりで 平和なもんでさあ・・・・・・ありがたいこってす!」