・馬鹿が世をもつ(新版日本の民話57/埼玉の民話/根津 富夫編/未来社/1975年初版)
中国にも同様の話があるという「絵姿女房」。埼玉秩父版では「馬鹿が世をもつ」というタイトル。
恋しい女房のそばからちよっとの間も離れなくなった男。仕事もしないのにこまった女房が、自分の肖像画をもたせ、畑で仕事するようにする。
男は女房の絵を眺めながら、畑仕事していたが、そのうち風が吹いてきて、絵が飛んで行ってしまう。
この絵をひろった殿さま。絵の女があんまり美しくていい女だったので、家来につれてくるようにいいつける。
やがて女房を手に入れた殿さまだが、女房は、笑顔一つみせない。
ところがある日、しょうぼうの鳥おどりの踊り子になってでかけた男が踊りだすと、女房が笑い出す。
殿さまは、これまで笑ったことのない女房が笑うのをみて、自分がおどったらどのくらい喜ぶことかしらんと思って、男の着物をかりて踊りだすが、女房はちっとも笑わない。殿さまがますますはりきって踊っているところへ、殿さまよりもっとえらい殿さまがやってきて、殿さまを追い出してしまう。
男が殿さまのところに出かけていくところでは、地方によって、ほうろく売り、もも売り、栗売りをよそおってでかけていくなどさまざま。
最後のところでは殿様が家(城)に入れなくなるが、山形版では、登場する夫婦が、村にかえって、村人に能を教えて、それが黒川能の始まりなったというのがある。
他の地域の「絵姿女房」は、秩父版でいうと後半部。前半部もかなり長い。
秩父版の前半部では、主人公の「ぬけ」が、大旦那の自慢の娘と結婚するという夢をみる場面があり、原因不明の病気になった娘の病を治すというおまけまである。
この夢を見る場面、しゃね舟を折って、それを枕の下にしいて寝るといい夢がみられると昔からいわれていたのですが、このしゃね舟というのは、女の人のあれに似た舟というから想像にかたくない。
この秩父版では、話者の名前が記入されているが、前半部は別の話を合体させているようだ。ここにでてくるしょうぼうの鳥おどりっていうのは、どんな踊りか、気になる話。
・絵姿女房 新潟版(日本昔話記録4/新潟県南蒲原郡昔話集/柳田國男編 岩倉市郎採録/三省堂/2006年)
夢がもとでよめをもらうことになった一人のずべっこ(きかぬ気の小僧)。
正月の二日朝、大尽から「いい夢を見たら者があったら、買うてやろう」といわれて「金の盥で手水をつかう夢を見た」と、ずべっこが答えますが、どうしても売るのはイヤだとことわります。
ところがどうまちがったのか、大尽のよめごの部屋で眠ってしまったずべっこが、大尽の怒りをかって、よめごをつれていけといわれてしまいます。
このあとの展開は、ほかの話と同様でが、公方様によめごを連れていかれたずべっこが、花屋の格好でお屋敷にでかけていきます。
そして、公方様といれかわったずべっこが、正月二日の夢のように、金の盥で手水をあうことができるという結末です。
「ずべっこ」は、なじみがないので、どう表現したらいいか 気になります。
・かぶ焼き太郎(岩手のむかし話/岩手県小学校国語教育研究会編/日本標準/1976年)
タイトルではイメージできませんが、太郎はたきぎ取り。いつもカブを焼いて食っていたのでついたあだ名。いつもカブを焼くと山の神さまにもお供えしていました。そのご利益でしょうか、太郎のところへきれいな娘っ子がやって一緒になります。
よめっこがあまりきれいなので、仕事に行かなくなった太郎に、似顔絵をもたせます。
風でとばされた似顔絵をみた殿さまが、よめっこを連れて行ってしまいます。ところがよめっこは、殿さまの前では笑うことがなく、殿さまは困ってしまいます。
そこへ、たばこ売りのまねをした太郎があらわれます。太郎の姿をみたよめっこが、うんとよろこんで にこにこ笑ったのを見たとのさまも、たばこ売りの格好をします。
とのさまは城に入れず、太郎がお殿さまになる結末です。
太郎が仕事にいかない理由も笑えます。
「おまえをみていたいから、山さ行かねえ」「風っこが吹いて寒いから、山さ行かねえ」「きょうは、日が照って暑いから、山さ行かねえ」「今日は、雨に濡れるから、山さいかねえ」
これでは仕事にならないのは当然です。