アクセス:マライアさん、双極性障害を告白 患者に勇気 #MeToo
2018年5月14日 (月)配信毎日新聞社
<access>
ポップ音楽界の大スター、マライア・キャリーさん=写真・ロイター共同=が4月、長年患う自身の「双極性障害」(そううつ病)を告白し、ツイッターなどで共感が広がっている。多くは同じ病に苦しむ人の声だ。そこからは、精神疾患を抱える人たちが生きづらい社会の現状も浮かぶ。
双極性障害では、気分が高ぶる「そう」と落ち込む「うつ」の二つの状態が表れる。
マライアさんは4月上旬、米ピープル誌のインタビューで病気を初めて公表した。同誌上で「最近まで否定と孤独の中で生きてきた。いつも誰かが私をさらし者にするのではないかとおびえていた」と語った。17年間苦しみ、最近になって治療を始め、告白を決意したという。
マライアさんは言う。「孤独でいる人たちへのスティグマ(偏見)が取り除かれることを願っている。病気は必ずしもあなたを定義するものではないし、私はそんなもので自分を定義されたり、コントロールされたりするのは嫌だ」
東京都在住で同じ病を患う男性「なお」さん(42)=ニックネーム=も「勇気をもらった」と話す一人だ。
なおさんは、IT企業のシステムエンジニア(SE)で激務に追われていた20代後半に発症した。「うつ」では何をする気も起きない。「そう」では逆に一睡もせず活動する。賭け事にはまり、職場では攻撃的になってトラブルを起こし退職した。勤め先を転々とし、30代半ばで自殺を図った。未遂に終わり、駆け込んだ精神科で初めて双極性障害と診断された。
投薬で症状は緩和し、今は作業所でケーキ作りや公園の草刈りをする。さまざまな精神疾患を抱える人が集う自助グループ「ハートプレイス東京」も作った。それでもなお、周囲に病気を打ち明けるのは難しいと感じる。
「友人に言っても『何、その病気?』と理解されず、親類から『元気じゃん、働けるじゃん』と言われる」。家族には「心が弱いだけだ」と言われ、ひどく傷ついた。
やっかいなのは「そう」の状態を自分自身も他人も病気と認識しにくいこと。精神科医の鈴木映二さんは「個人差はあるが、薬物療法でも1年の3分の1は『うつ』か『そう』になってしまう。症状が出ている患者を職場が受け入れるには、社会が相当成熟しないと難しい」と語る。
自助グループでなおさんと交流する都内の男性「あつし」さん(40)=同=は、統合失調症を患う。結婚して子も授かったが、病気を知った妻の家族の干渉で2年後に離婚した。「社会には精神疾患に対する否定しかない」と感じている。
マライアさんの告白を受けて、なおさんは「病気の当事者が経験を発信し、世の中に精神障害への関心を広げていきたい」と話す。あつしさんも「自分たちが味わったつらさを社会からなくしたい」と前向きだ。【宇多川はるか】
2018年5月14日 (月)配信毎日新聞社
<access>
ポップ音楽界の大スター、マライア・キャリーさん=写真・ロイター共同=が4月、長年患う自身の「双極性障害」(そううつ病)を告白し、ツイッターなどで共感が広がっている。多くは同じ病に苦しむ人の声だ。そこからは、精神疾患を抱える人たちが生きづらい社会の現状も浮かぶ。
双極性障害では、気分が高ぶる「そう」と落ち込む「うつ」の二つの状態が表れる。
マライアさんは4月上旬、米ピープル誌のインタビューで病気を初めて公表した。同誌上で「最近まで否定と孤独の中で生きてきた。いつも誰かが私をさらし者にするのではないかとおびえていた」と語った。17年間苦しみ、最近になって治療を始め、告白を決意したという。
マライアさんは言う。「孤独でいる人たちへのスティグマ(偏見)が取り除かれることを願っている。病気は必ずしもあなたを定義するものではないし、私はそんなもので自分を定義されたり、コントロールされたりするのは嫌だ」
東京都在住で同じ病を患う男性「なお」さん(42)=ニックネーム=も「勇気をもらった」と話す一人だ。
なおさんは、IT企業のシステムエンジニア(SE)で激務に追われていた20代後半に発症した。「うつ」では何をする気も起きない。「そう」では逆に一睡もせず活動する。賭け事にはまり、職場では攻撃的になってトラブルを起こし退職した。勤め先を転々とし、30代半ばで自殺を図った。未遂に終わり、駆け込んだ精神科で初めて双極性障害と診断された。
投薬で症状は緩和し、今は作業所でケーキ作りや公園の草刈りをする。さまざまな精神疾患を抱える人が集う自助グループ「ハートプレイス東京」も作った。それでもなお、周囲に病気を打ち明けるのは難しいと感じる。
「友人に言っても『何、その病気?』と理解されず、親類から『元気じゃん、働けるじゃん』と言われる」。家族には「心が弱いだけだ」と言われ、ひどく傷ついた。
やっかいなのは「そう」の状態を自分自身も他人も病気と認識しにくいこと。精神科医の鈴木映二さんは「個人差はあるが、薬物療法でも1年の3分の1は『うつ』か『そう』になってしまう。症状が出ている患者を職場が受け入れるには、社会が相当成熟しないと難しい」と語る。
自助グループでなおさんと交流する都内の男性「あつし」さん(40)=同=は、統合失調症を患う。結婚して子も授かったが、病気を知った妻の家族の干渉で2年後に離婚した。「社会には精神疾患に対する否定しかない」と感じている。
マライアさんの告白を受けて、なおさんは「病気の当事者が経験を発信し、世の中に精神障害への関心を広げていきたい」と話す。あつしさんも「自分たちが味わったつらさを社会からなくしたい」と前向きだ。【宇多川はるか】