社会保障費推計 2040年見据えた議論急げ【読売社説】
その他 2018年5月24日 (木)配信読売新聞
人口減が深刻化する将来において、社会保障は維持できるのか。持続可能な制度の構築へ向けて現実を直視し、給付と負担の見直しに取り組まねばならない。
政府が、高齢者人口がピークに達する2040年度の社会保障費の将来推計を公表した。
医療、介護、年金、子育て支援などの社会保障給付費の国内総生産(GDP)に対する比率は、現在の21・5%から24%に上昇する。特に、需要が増える医療、介護分野の伸びが著しい。介護の対GDP比は1・7倍に膨らむ。
40年には、団塊ジュニア世代が老後を迎える。高齢者人口は4000万人近くにまで増え、総人口の3分の1を超える。現役世代の減少は加速する。
これまでは、団塊の世代が75歳以上になる25年が社会保障改革の焦点で、将来推計もその時点にとどまっていた。今回初めて、人口構造が激変する時期の状況を明示したことには、意義がある。
推計によると、名目の給付費は今の1・6倍の190兆円になるが、対GDP比でみると1・1倍だ。際限なく膨張して制度が崩壊する、といった一般的なイメージとは異なるのではないか。
国民には、漠然とした将来不安が広がっている。それが、消費を低迷させ、脱デフレを困難にしてきた。現実に即した冷静な議論で不安解消につなげたい。
無論、費用の膨張を可能な限り抑制する努力は不可欠だ。
医療と介護の連携を強化し、入院中心の医療から在宅中心へと転換する。軽度者向けの介護保険サービスは自治体事業に移す。予防重視の施策を拡充し、健康寿命を延ばす。医療・介護の効率化を徹底して推進せねばならない。
国民生活を考えれば、給付抑制には限界がある。膨らむ費用を誰がどう負担するのか。減少する現役世代にばかり頼っていては、早晩行き詰まる。高齢者も含めた全世代が、経済力に応じて負担する仕組みに改める必要がある。
制度の支え手を増やすため、働き方改革を進め、女性や高齢者の労働参加を促すことも大切だ。
負担増の議論は避けて通れない。消費税率10%を実現する環境を整える。その上で、さらなる税率アップを検討すべきだろう。
40年以降を見据えた最大の課題は、いかに人口減を食い止めるかだ。出生率向上を速やかに実現できるかどうかで、日本の将来像は大きく変わる。少子化対策のさらなる拡充が急務である。