<十勝豚丼、いっぴん勝負>
「ハーフサイズにしとく?」
ドキッとしてわたしは思わず顔をあげてしまう。カウンター席で隣に座った花畑カップルの彼氏が彼女に、気遣って訊いたのだった。ふぅ、てっきり見透かされたのかと思ったぜ。
豚丼はご飯の量、肉の量、タレの量、ネギの量と有無、肉のカットの大小などは好みでいかようにもアレンジできる。
「ううん、レギュラーでいいわよ。ソフトクリームだけだったから、もうお腹ペコペコ!」
細身で、連れ合いにはもったいないくらいベッピンの彼女が頼もしく答えた。
それを聞いて吹っ切れたわたしは手をあげて店員を呼ぶと、豚丼のレギュラーを宣誓するように元気に注文した。こっちもナイタイ牧場で十勝牛ハンバーガー我慢して白い恋人一枚だけで凌いだしね。
1930年代に誕生した豚丼だが、ソウルフードとして認められていまや名物の地位を獲得、十勝には二百軒もの店があるらしい。
わたしの豚丼デビューの舞台となる「十勝豚丼 いっぴん本店」である。
北海道では焼肉のタレで有名な「ソラチ」が運営しているそうで、店名の「いっぴん」は、豚丼だけの一品のみで勝負している、ことからきている。
駐車場が広く、地元客が多いということで選んだのだった。旅先では地元客が多い飲食店を選ぶのはまず間違いがなく、旅先での知恵、鉄則とさえいえる。
ナイタイ高原牧場からは丁度50キロ、車を走らせること1時間ちょっとだが寄り道してランチタイムの終わりごろに到着するよう調整した。
それでも店は混んでいて満席だった。店員もテキパキした接客で、思ったより客の回転は速いようだ。
入口でボードに名前を記入して待ち席に座って待つ。わたしの次がカップル客であった。聞こえてくる会話からすると、どうやら花畑牧場に寄って来たらしい。帯広空港からのレンタカー利用の観光ってやつか。
この店は豚丼の持ち帰りもやっているようだ。
煙はみごとにすべて換気されているが、外の大気に慣れた鼻孔に、炭火で炙られた醤油ダレと肉の焼けるなんとも香ばしい匂いが飛び込んできて食欲中枢を鷲掴みされる。
カウンターの目の前、焼き場では渋団扇ならぬドライヤーの風を使って備長炭の火加減を調整しながら網の上の肉をトングでタイミングを見計らってひっくり返していた。タレは生肉に浸け、焼いて塗る。豚の特上本ロース肉をコクのある甘辛たれにからめて味が充分染みるまで数回焼く、重ね焼だ。
肉が焼きあがると、待ってましたとばかり肉をさくさくと切り、ご飯を盛り丼つゆかけて肉を盛りつけネギを散らす、味噌汁を椀に入れる、など淀みのない手慣れた動きが繰り出される。一品だけだしね。
ジャーン、到着。ははは、蓋が持ち上がっているわい。
まずは豚肉からいってみるか・・・。
備長炭の炭火は余分な脂だけをバンバン落とし、必要な脂は残す。特上ロース肉ならではの旨みと香ばしさを絶妙に引きだす。これぞ炭火の魔力である。
おほー、こいつはなんとも旨い。
肉厚だが脂も丁度よく残って、柔らかく、焦げの苦みがバンバンと食欲を煽る。脇役のシャキシャキの白髪ネギも、口中の味に絶妙な辛味アクセントをパンチみたいにチョイチョイと醸しだす。
パクパク食べ進めて、あと二口くらいでピタリと箸が止まった。丼つゆがたっぷりこんと浸みた甘アマのご飯が出てきたからだ。
卓上にあった胡椒、七味、山椒のうち、山椒を選んで肉と飯にせっせと振りかける。そもそも豚丼は「鰻丼」をヒントに考案されたそうだしね。
これがドンピシャ大正解で、ついに残さずに食べきった。
よしこれで、十勝豚丼の味の基準を獲得した、と思う。次回食べるときは絶対、掟破りだがご飯は別盛りで、小癪な脇役の白髪ネギは増量にするぞ。
はるばる帯広まで行かなくても、豚丼もいまや都内・首都圏でいくらでも食べられるようだが、「初めて食べるなら<ホンモノ>を<現地>で」というのが、わたしのとにかく主義。
大空と大地がどこまでも広がる十勝平野の、広大な風土と澄みきった大気のなかで食べたかったのである。
→「十勝、ナイタイ牧場の大空と大地」の記事はこちら
「ハーフサイズにしとく?」
ドキッとしてわたしは思わず顔をあげてしまう。カウンター席で隣に座った花畑カップルの彼氏が彼女に、気遣って訊いたのだった。ふぅ、てっきり見透かされたのかと思ったぜ。
豚丼はご飯の量、肉の量、タレの量、ネギの量と有無、肉のカットの大小などは好みでいかようにもアレンジできる。
「ううん、レギュラーでいいわよ。ソフトクリームだけだったから、もうお腹ペコペコ!」
細身で、連れ合いにはもったいないくらいベッピンの彼女が頼もしく答えた。
それを聞いて吹っ切れたわたしは手をあげて店員を呼ぶと、豚丼のレギュラーを宣誓するように元気に注文した。こっちもナイタイ牧場で十勝牛ハンバーガー我慢して白い恋人一枚だけで凌いだしね。
1930年代に誕生した豚丼だが、ソウルフードとして認められていまや名物の地位を獲得、十勝には二百軒もの店があるらしい。
わたしの豚丼デビューの舞台となる「十勝豚丼 いっぴん本店」である。
北海道では焼肉のタレで有名な「ソラチ」が運営しているそうで、店名の「いっぴん」は、豚丼だけの一品のみで勝負している、ことからきている。
駐車場が広く、地元客が多いということで選んだのだった。旅先では地元客が多い飲食店を選ぶのはまず間違いがなく、旅先での知恵、鉄則とさえいえる。
ナイタイ高原牧場からは丁度50キロ、車を走らせること1時間ちょっとだが寄り道してランチタイムの終わりごろに到着するよう調整した。
それでも店は混んでいて満席だった。店員もテキパキした接客で、思ったより客の回転は速いようだ。
入口でボードに名前を記入して待ち席に座って待つ。わたしの次がカップル客であった。聞こえてくる会話からすると、どうやら花畑牧場に寄って来たらしい。帯広空港からのレンタカー利用の観光ってやつか。
この店は豚丼の持ち帰りもやっているようだ。
煙はみごとにすべて換気されているが、外の大気に慣れた鼻孔に、炭火で炙られた醤油ダレと肉の焼けるなんとも香ばしい匂いが飛び込んできて食欲中枢を鷲掴みされる。
カウンターの目の前、焼き場では渋団扇ならぬドライヤーの風を使って備長炭の火加減を調整しながら網の上の肉をトングでタイミングを見計らってひっくり返していた。タレは生肉に浸け、焼いて塗る。豚の特上本ロース肉をコクのある甘辛たれにからめて味が充分染みるまで数回焼く、重ね焼だ。
肉が焼きあがると、待ってましたとばかり肉をさくさくと切り、ご飯を盛り丼つゆかけて肉を盛りつけネギを散らす、味噌汁を椀に入れる、など淀みのない手慣れた動きが繰り出される。一品だけだしね。
ジャーン、到着。ははは、蓋が持ち上がっているわい。
まずは豚肉からいってみるか・・・。
備長炭の炭火は余分な脂だけをバンバン落とし、必要な脂は残す。特上ロース肉ならではの旨みと香ばしさを絶妙に引きだす。これぞ炭火の魔力である。
おほー、こいつはなんとも旨い。
肉厚だが脂も丁度よく残って、柔らかく、焦げの苦みがバンバンと食欲を煽る。脇役のシャキシャキの白髪ネギも、口中の味に絶妙な辛味アクセントをパンチみたいにチョイチョイと醸しだす。
パクパク食べ進めて、あと二口くらいでピタリと箸が止まった。丼つゆがたっぷりこんと浸みた甘アマのご飯が出てきたからだ。
卓上にあった胡椒、七味、山椒のうち、山椒を選んで肉と飯にせっせと振りかける。そもそも豚丼は「鰻丼」をヒントに考案されたそうだしね。
これがドンピシャ大正解で、ついに残さずに食べきった。
よしこれで、十勝豚丼の味の基準を獲得した、と思う。次回食べるときは絶対、掟破りだがご飯は別盛りで、小癪な脇役の白髪ネギは増量にするぞ。
はるばる帯広まで行かなくても、豚丼もいまや都内・首都圏でいくらでも食べられるようだが、「初めて食べるなら<ホンモノ>を<現地>で」というのが、わたしのとにかく主義。
大空と大地がどこまでも広がる十勝平野の、広大な風土と澄みきった大気のなかで食べたかったのである。
→「十勝、ナイタイ牧場の大空と大地」の記事はこちら
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