温泉クンの旅日記

温泉巡り好き、旅好き、堂社物詣好き、物見遊山好き、老舗酒場好き、食べ歩き好き、読書好き・・・ROMでけっこうご覧あれ!

八方目

2007-01-25 | 旅エッセイ
  < 八方目 >

 わたしは普通のひとより視野が広い。
 自分でいけしゃあしゃあと言うとは、なんてェ生意気な奴だと目くじらを立てな
いでほしい。これは文字通りの、目に見えて認識できる範囲の視野のことである。

 普通に前をみて歩いていてもすぐ真下の歩道に落ちているものがみえてしまうの
だ。犬の糞は踏まないし、百円硬貨などは目ざとくみつけて拾ったりする。
 投げ落とす視線の焦点を手前にすこし引けば、ちいさな蟻なども認識して、踏ま
ないように歩いてしまうほどだ。動くもの、周囲と色が違うもの、光るものをとく
に認識するようだ。(このあいだ書いたように色弱なんだけどね)
 
 もっとも、この広い視野は生まれつきのものではない。
 少林寺拳法でいうところの「八方目(はっぽうもく)」というもので、簡単な
訓練で身につけたのである。四方八方から名づけたのだろう。脾臓に打撃を加えて
三年後に死に至らしめる「三年殺し」とかの秘術とは違い、誰でもすこしやれば
会得できるのだ。



 とりあえず誰か相手がひとりいる。
 相手と1メートルぐらいはなれて向かい合って立つ。その際に両手をまっすぐ
横に伸ばす。両足は軽く広げておく。こちらは相手の目または胸あたりに視線の
焦点をぼんやり軽めに固定させる。七割ぐらいを焦点部分に三割をそれ以外の部分
に、という感じ。

 この状態で、相手に、広げた両手の指先または両足の足先をかすかに動かして
もらい、その方向を「右!」とか「左!」とか答えて当てるのだ。難しいような
ら、相手に後ろにさがってもらい、クリアーできたらすこし前に進んでもらえば
いい。
 一日、十分くらいやって一週間もあれば会得できる。

 しかしそれを会得したら、武道の実戦や喧嘩いがいにいったいなんの役にたつの
かというと、車を運転しているときに役に立つのだ。(ずいぶんあとから実感した
のだが・・・ね) また、刺青者ばかりがはいっている浴室(「災難温泉」参照)
にあろうことか入っちゃったときなど、八方目を使うことにより「オイ、てめえ
ガンつけやがったな」などと云われず、いらぬ刃傷沙汰をなんなくさけることも
できたりする。(これも、普通はあんまりないか)

 車の場合前方の一点をみながら、広範囲な路面に異常なものがあれば、目が勝手
にいち早くひろって余裕をもってよけられる。
 脇道から突然なにかが飛びでてきても、瞬時に捉え、即座に反応して危険を回避
することができるのである。
 もっとも、この広い視野に飛び込んでくる虫だけは、意識して反応しないように
している。高速で走っている最中に、飛び込んでくる虫をいちいちよけていたら
大事故につながるからである。



 桜が散ったあとの蒜山高原(岡山県)を走ったときは、ジツにまいった。道路を
あちこちで毛虫がもぞもぞと横断していたのである。
 飛び込んで自殺していく虫はしょうがないが、懸命に新天地に向かうけなげな
毛虫を、タイヤで非情に踏み潰すのはなんとも後生が悪い。結果は同じでも、この
わたしのタイヤで引導を渡したくないのである。平日でほかに車がまったく走って
いなかったので、すべての毛虫を踏まずに走れたが、見えすぎるのも困りものだ。

 あとひとつ八方目の弱点は、雨の夜の高速道路での運転である。前面と左右の
窓ガラスの潰れてだらだらはり付いた水滴に、光が滲みギラギラ乱反射するのを
目が勝手にひろい、それを危険なデータかどうかの判断が晴れた日のように一瞬で
決まらず、かなり運転はしづらい。ハラハラするのだ。・・・となると、あまり
お勧めできないか。

 目の話をもうひとつ。
 ひとの目をみて話せ、とよく言うが、これが意外に難しい。

 なんメートルか離れていれば、目と目の間あたりに焦点をとればいい。ところが
近くに相手の顔がある場合、つまり怒られているときなどに「ひとの目をよく見
ろ」と言われるので困るのである。どうしてもどちらか片方の目玉だけをみてしま
う。これはやばいと目と目の間に焦点を結ぶと、あいてはいま目と目の間をみて
やがるなと感づく。

 恋人どうしで険悪な雰囲気のときもそうだ。わたしの目をまともに見れないの、
とくる。
 そういうときには、わたしは相手の目と目の間の奥あたり、つまり後頭部あたり
を透かして焦点を結ぶのである。
 これでバッチリ百点満点、一言も文句はでない。
 他のひとはいったいそういう時に、どこを見ているのだろうか。とても気にな
る。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 臨機応変 | トップ | 胡麻豆腐 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

旅エッセイ」カテゴリの最新記事