温泉クンの旅日記

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由布院(2)

2009-10-25 | ぶらり・フォト・エッセイ
  <由布院(2)>

 実際の金鱗湖の大きさは、これでどうして湖なのかと思えるほど可愛い大きさ
である。



 金鱗湖の由来はこうだ。
 由布岳の下にあるところから、「岳ん下ん池(たけんしたんいけ)」と呼ばれ
ていた。
 明治のころ、儒学者の毛利空桑(もうりくうそう)が、池のほとりにある茅葺
の露天風呂の「岳ん下ん湯」、通称「下ん湯」から水面をみていたところ、魚が
飛び跳ねてその鱗が夕日を浴びて金色に輝いたところから名付けられた。

 底から湧き出る金鱗湖の湧水は大分川の源流になっている。
 由布院では秋から冬にかけて冷え込む朝、盆地にたちこめる幻想的な朝霧が
有名であるが、この金鱗湖から流れ出る川の水蒸気が原因であるといわれている。

 このほとりに一軒の宿がある。
 亀の井別荘である。森と庭園のようなここの敷地は一万坪と広大だ。



 作家山口瞳は「温泉へ行こう」という著書のなかで、ここを桃源郷と書いた
格式ある宿である。
 門は開け放たれているのだが、そこには宿泊客でなければ相当にはいりずらい
威厳がたしかにある。

 実はわたしは、一度だけ泊まったことがあるのだ。
 それも山口瞳が泊まった一番奥まった離れに、である。数少ない自慢のひとつ
である。
 いまはまったく違うのだが、旅に夢中になるまえのわたしは泊まる費用にかな
り無頓着であったのだ。

 久留米に出張して、帰京するまえにどこか一泊しようかなと思ったときにこの
宿を思いだしたのだ。懐が珍しく暖かいせいもあったのだろう。
 電話帳で番号を探して、標準のちょっと上くらいの料金で予約をいれた。時間
潰しのパズルの週刊誌を買い込みJRの久留米駅から黄色い各駅電車をつかって
由布院を訪れたのだった。料金は高いが目の玉が飛び出るほどではなく、泊まっ
たことはないが伊豆箱根とか秋保の高級旅館の離れなどと比べたら格段に安いの
ではないだろうか。



 空いていたのか平日のせいだろうか、グレードアップの配慮があったのか
「一番」の離れに案内されてびっくりする。
 民家風の離れの前は池があって、テラスのように張り出した板の間みたいなの
が設置してあり部屋から自由に行き来ができる。
 凝った調度品のある部屋の奥の内湯には静かに温泉が溢れ出ていた。もちろん
食事は、どれもこれもさりげなく手が込んでいて申し分ないものだった。
 光溢れる大浴場、緑に囲まれた露天風呂、蔵書が豊富な談話室。

 夕食が終わると、懐中電灯を借りて下駄をカラコロいわせながら小川沿いに
ホタルを見物に行った。ホタルだから晩夏のころだったのだろうか。

 ・・・切りがないし、「オイ! 自慢はそのへんでやめろ!」と友人から殴ら
れそうなのでやめておくが、興味があるかたは山口瞳の本をお勧めする。
 亀の井別荘より高い宿が由布院にはあるが、わたしはとにかくここが最高だと
思っている。旅を卒業するときにはぜひ最後に訪れてみたい。



 宿泊者でなくても、隣接した洒落た喫茶店「天井桟敷」には自由にはいれる。
一階には土産物屋もあって、オリジナルな品物が並び繁盛している。



 天井桟敷で珈琲を飲んで、外で一服するとまた由布院駅のほうにゆっくり戻る。



 ずいぶん店の数が増えたような気がする。選択肢が広がるのはよいことで、
きっと気にいりの店がみつかることだろう。



 辻馬車も由布院の雰囲気をしっかり盛りあげている。由布院は歩いてよし、
レンタル自転車で散策するのもいい。



 さて、今日は今回の九州旅では一番料金の高い宿に泊まるのである。由布院だ
からこそ期待でわくわくしてしまうのだった。


  →「由布院(1)」の記事はこちら

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